もっと「韓国・朝鮮」のことを知りたい
(朝鮮を知る教材と授業)
大阪市立南住吉小学校 国房美恵子
(はじめに)
本校では、年間指導計画を作成し、在日朝鮮人教育にここ数年来取り組んできました。そうすることで、成果があった反面、新たな問題も起こり、昨年度よりも少し踏み込んだ在日朝鮮人教育に取り組む必要性を、教職員で確認できました。
本校は児童数が1000人を超える大規模校ですが、その1%にあたる11名の外国人が在籍しています。在籍する外国人が少ないから外国人教育が薄くなっていたかもしれません。しかし、多数在籍であろうと少数在籍であろうと、在日朝鮮人であることを隠し、本名を名のれない限り、まわりの日本人に正しい朝鮮観を教え続けていかなくてはいけないことに、取り組みを進める中で、今さらながら気づきました。
今年、本校では在日朝鮮人教育の授業研究会をすることになりました。4年生での取り組みは、まずどのくらいの知識を児童が持っているのか、アンケートをとることから始めました。「あなたは外国のことを何か知っていますか」これは予想どおり「はい」が大多数でしたが知っている外国の名前は、アメリカ・フランス・イギリス・ブラジルなどで、アジアでは中国を知っている児童が10数名でした。歴史を学習していない児童にとって、ニュースの中で出てくる韓国・朝鮮は中国の一部として考えていることがわかりました。
これらの実態から次のような目標を持ちました。
@韓国・朝鮮の位置を知る。
A韓国・朝鮮に親しみ、在日朝鮮人が多数大阪に住んでいることを知る。
(取り組み1)
世界地図を見せ、日本に近いことや、写真集で、昔から深いつながりがあったことなどを教えました。児童に知識だけでなく、体験させていくことで、韓国・朝鮮に親しむことができると考え、チャンゴを練習したり、音楽の時間にアリランを歌ったりしました。アリランは少し言葉が難しいので、最初は声も小さかったのですが、歌詞を覚えるにしたがって大合唱になりました。国語にローマ字が単元で出てくるのもよかったのかもしれません。日本にいちばん近い国(韓国・朝鮮)の文字であるハングルがローマ字と同じように組み合わされた表音文字であることや、世界ですぐれている文字であることなどを知らせました。
(取り組み2)
4年生の段階で歴史的な学習は少々難しいと思われるので、『こんにちはアンニョンハシムニカ』(在日外国人の幼児・児童・生徒の教育研修資料・大阪市教委)を参考にして、古代の大阪と朝鮮半島のつながりのある場所をスライドにして見せました。
本校は住吉区にあるので、
@新羅寺(住吉大社の神宮寺)−住吉区
A行基橋(各地で土木技術を生かし、橋・堤防・溜池・用水路を造り、民衆の中で布教していた百済系の僧が造った橋)−東住吉区
B阿麻美許曽神社(新羅系の神社)−東住吉区
C杭全神社(百済系の坂上田村麿呂の孫が建てたと伝えられる)−平野区
D四天王寺(聖徳太子の命により建立された最初の官寺である。この寺は百済から造寺工で本姓は柳氏であった金剛重光を祖とする金剛組により建立された百済様式の伽藍配置) −天王寺区
E比売許曽神社(朝鮮新羅の王子の天之日矛の妻、阿加留比売を祀る)−東成区
次に、コリアタウンの朝鮮市場のスライドで、生野区には多くの朝鮮人が住んでいて、チョゴリやキムチなど朝鮮人の生活に必要な物を売っているようすなどを知らせました。子どもたちは、
「生野区にはチマチョゴリやプチェなどが売っているんだなあ。」
「韓国・朝鮮のコリアタウンという町があったとは知らなかった。」
というように生野区に多くの韓国・朝鮮人が住んでいることが分かったようです。
そこで、日本にはどれくらい朝鮮人が住んでいるかを、円グラフで学習しました。日本に在日している外国人132万人(1993年)のうち、68万人が韓国・朝鮮人であることを知った子どもたちは、
「韓国人とか朝鮮人が、日本にいっぱいいることがわかった。」
大阪での在日朝鮮人(児童在籍)の学習では
「生野区では3分の1も朝鮮人がいるなんておどろきました。」
生野区3分の1、東成区8分の1、西成区14分の1、そして住吉区100分の1。
「勉強していて、韓国1朝鮮人がわたしたちといっしょに住んでいるなんて知らなかったからビックリしました。」
「韓国・朝鮮人が生野区に3分の1もいることに、とてもビックリしました。住吉区には。100分の1しかいないんだなあとわかった。」
など、子どもたちは在日朝鮮人が多数大阪に住んでいることに驚いていました。
(取り組み3)
各学年の在日朝鮮人教育が深まるに連れて児童の認識が高まり、
「生野民族文化祭に行きたい。」
との声が上がってくるまでになってきました。同和教育推進委員会での話し合いなどを持ち全教員の賛成を得られないまでも、有志として参加することができるようになりました。
参加児童73名、教員11名、保護者数名。参加した児童は、次の日、教室で楽しそうに
「昨日、生野民族文化祭に行ってんで。足でけるのん(チェギ)とかあって楽しかったよ。」
と、みんなの中で話していました。
(おわりに)
適切な教材・教具を選んで取り組めば、児童は少しずつ朝鮮に親しみを覚え、現実の姿を知り、正しい朝鮮観をもって筋道をたどっていくことに確信を持ちました。児童は体験することによって、新しい認識が育てられ、次の行動になって表れてくることも分かりました。研究授業を通して、教職員の中で取り組むことの必要性と認識が深まったことを知り、今後も続けて取り組んでいくことの大切さを痛感しました。
4年の取り組み
(1)学年の研究テーマ
・日本と韓国・朝鮮とは、昔から深いつながりがあることを知り、韓国・朝鮮の風俗習慣に親しむ。
・大阪には、朝鮮ゆかりの史跡があり、多くの韓国・朝鮮の人々が住んでいることを知り、今も関係の深い国であることに気づく。
(2)研究テーマの設定理由
本学年には、在日韓国・朝鮮人児童が2名在籍している。3年生までは、民話に親しんだり、簡単なあいさつを知ったり、歌を歌ったりして、身体で感じて楽しむという形で学習してきた。4年生では、韓国・朝鮮が日本に一番近い外国であることを意識させ日本の生活にとけこんでいる韓国・朝鮮の文化や風俗・習慣などがあることに気づかせ親しみを感じさせたいと考えた。また、無理なく、正しい知識に出会えるように配慮し5、6年の学習内容に取り組める意識を養う必要があると考えた。
(3)年間計画
1学期 |
2学期 |
3学期 |
○外国人に対する意識調査
○「おばあさんのトラたいじ」(民話)
○民族舞踊の観劇
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○日本と朝鮮とのつながり」
○「日本ととなりのくに」
○韓国・朝鮮の風俗・習慣
ハングル 歌・楽器 史跡
大阪に住む人々
|
○韓国・朝鮮の風俗・習慣
遊び 歌・楽器など
○「イルナムくんとぼく」
(にんげん)
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在日朝鮮人教育指導案
指導者 国房美恵子
1.日時 1995年l0月18日(水) 第2時限
2.学年・組 第4学年4組 在籍38名
3.場所 4年4組教室
4.教材 日本と韓国・朝鮮とのつながり
5.教材設定の理由
(1)児童観
児童は、3年生までに民話を通して韓国・朝鮮の文化に接してきている。4年生では、6月に「おばあさんのトラたいじ」を学習し、日本の昔話との類似点などを話し合った。また、7月の民族舞踊団の見学にあたっては、事前にチャンゴなどの楽器について調べた。見学では、民族衣装の美しさなどにひかれ、韓国・朝鮮の楽器や遊びについて、もっと学んでみようとする意欲が見られた。しかし、韓国・朝鮮のことを自分たちの生活と結びつけて考えるところまではいたっていないようであった。
(2)教材観
大阪には、朝鮮とのつながりを示す史跡が数多く残っている。社会科の学習で地理的視野が広まりつつある4年生の児童にとっては、史跡を地図で調べることで、興味を持って身近に日本と朝鮮との関係の深さを知ることができると考える。また、大阪にはかなりの数の韓国・朝鮮の人々が住んでいる。児童の生活の範囲が広まるにつれて、彼らとの接点が多くなり、その存在にも気づき始めている。これからの国際理解のためには、同じ大阪に住む韓国・朝鮮の人々に生活を知り、風俗・習慣のちがいを認めながら対等につきあっていかなければならない。
そして、生活を知るうえでは、自分たちで楽器を演奏したり、歌ったり、道具を使って遊んだりなどの体験をして肌で感じることが必要である。
上の学年で学習を深めていくが、それまでに遠い存在としての在日韓国・朝鮮人ではなく、自分たちと直接つながりがあるものとして、意識させておきたいと考える。
(3)指導観
歴史をまだ学習していない児童にとって、史跡の意味はわかりにくい。スライドを使って、簡単に説明し、身近に数多く存在することに注目させ、そこから日本と朝鮮との昔からのつながりを実感させたい。
また、現在生活している在日韓国・朝鮮人については、具体的な人口統計の表を使うことで、多くの人々がすぐ近くにいることを知り、親近感を持たせたい。そして、同じ大阪に住んでいる在日の人々の声から、その思いを知り、自分たちがこれからどう感じ、どう行動していったらいいかを考えさせたいと思っている。
6.目標
(1)日本と韓国・朝鮮とは、古くから深いつながりがあることを知り、韓国・朝鮮の風俗・習慣に親しむ。
(2)大阪市にある朝鮮ゆかりの史跡や、多くの韓国・朝鮮の人々が住んでいることに気づき、今も関係の深い国であることを知らせる。
7.指導計画(全6時間)
第1次 日本ととなりの国……1時間(社会科)
第2次 韓国・朝鮮の風俗・習慣(1)……1.5時間
チャンゴ(0.5時間 音楽科) ハングル(1時間 国語科)
第3次 大阪にある朝鮮ゆかりの史跡や大阪に住む人々……2時間(社会科=本時)
第4次 韓国・朝鮮の風俗・習慣(2)……1.5時間
チェギ(1時間 ゆとり) 楽器(0.5時間 音楽科)
8.本時の目標
(1)大阪にある朝鮮ゆかりの史跡を知り、日本とつながりのあることを知る。
(2)大阪市に多くの韓国・朝鮮の人々が住んでいることを知る。
9.本時の展開
学習活動 |
指導上の留意点 |
準備物 |
1.前時までの学習内容を想起する。
2.本時のめあてを知る。
3.大阪には、多くの古代朝鮮の史
跡があることを調べ、話し合う。
4.今も、大阪には、多くの韓国・
朝鮮の人々が住んでいることを
調べ、話し合う。
5.感想を話し合う。
|
○日本と韓国・朝鮮とは、昔
から深い関係があったことを
思い起こさせる。(漢字、米
作り、仏像、焼き物など)
○自分たちが住んでいる大阪
市と韓国・朝鮮とのつながり
について学習することを知ら
せる。
○身近にあるものについては
スライドで説明し、他には赤
い点を地図に示すことで、数
の多さに気づかせる。
○円グラフを使って、人数の
多さを視覚に訴え、実感させ
る。
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・スライド
・大阪市の地図
・写真
・スライド
・チョゴリ
・キムチ
・円グラフ
・プリント
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10授業を終えて
(1)資料作りが大変だったが、その中で4年生段階では、どのような内容を、どのような順序で取り組むかの手がかりをつかむことができたように思う。
(2)子どもたちは、授業を通して、大阪に多くの韓国・朝鮮人が住んでいることがわかった。また、自分たちの身近にも韓国・朝鮮人が住んでいることを感じとることができ、さまざまな疑問や興味を持ちつつある。それを今後の学習につなげていきたい。
(3)低学年から、韓国・朝鮮に親しませる学習を少しずつ積み重ねていくことが大切だと思う。その意味からも、今まで以上に学校全体として、縦の指導計画を細かく系統的に作成する必要がある。
6年の取り組み
(1)学年の研究テーマ
・主体的に日本と韓国・朝鮮の歴史を調べ、隣国との正しい関係をとらえるようにする。
・お互いの国の文化・歴史を理解することによって「平和」「人権」について考えるようにする。
(2)研究テーマ設定の理由
今年度の本校の同和教育の中心の1つは「在日韓国・朝鮮人教育の取り組みをすすめ課題を明らかにする」である。児童の中には韓国・朝鮮の位置や文化についてあまり知らず、大阪に在住する在日韓国・朝鮮人のことを知らない者もいた。そこで高学年では在日外国人の児童の教育を取り組むにあたって、日本と韓国・朝鮮との歴史的事実を知り、その中で在日韓国・朝鮮人のおかれている現状を考えることを大切にしたい。
(3)年間計画
1学期 |
2学期 |
3学期 |
学習指導計画の作成
・朝鮮の歌と踊り
(観劇会)
社会科(韓国・朝鮮と日本)
@米作りと渡来人
A大仏開眼と行基
B秀吉の朝鮮侵略
サラム歴史編も活用
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・授業研究会
「こきょうと
ひきはなされて」
C朝鮮通信使
D日清・日露戦争
E韓国併合
F皇民化政策・
強制連行
ピース大阪見学
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・成果と課題(反省)
朝鮮・韓国の人々のくらし
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(4)実践にあたって
@社会の中の民族的偏見と差別意識を許さない気持ちを育てるために、
・日本と韓国・朝鮮人との交流の歴史を正しく知る。
・在日韓国・朝鮮人を異なる民族的・文化的背景を持った存在として認め、かつ対等の関係を築こうとすることにより、その他の異文化や異民族理解への視野を広げる。
・隣国への理解、文化への共感、在日韓国・朝鮮人のおかれている現状を知る。
・お互いの民族性や人権を尊重し、自分の生き方を考えていこうとする態度を養う。
A 在日外国人の児童の立場を理解し、共に成長する集団を育成するために、
・一人一人を大切にする日頃の集団作りを確かなものにする。
・弱い立場におかれている者の思いや悩みを知り、共に成長する集団をつくる。
『むくげ』144号1996.1.20より |