T.本校の渡日児童の実態
本校にベトナム人児童が在籍するようになって15年、日本語教室が開講されて6年になります。最近では、中国、ブラジル等からの渡日児童も増えてきています。
ベトナム人家庭はほとんど雇用促進事業団老原団地に住んでおり、その周辺にも数所帯が生活しています。現在、老原団地には、20所帯以上のベトナム人が生活しており、若い世代が多いので、今後とも引き続き、ベトナム人の新入生が続くと思われます。また、中国「帰国」児童は雇用促進住宅、府営住宅で生活していますが、志紀地区では、府営住宅の建て替えが進行しており、中国「帰国」者優先入居が進められているので、今後とも転入者が増えることが予想されます。また、ブラジルやペルー等からの日系人の渡日者も文化住宅などに入居してきます。
それぞれの児童の保護者は、渡日して10年を超える人がいるにもかかわらず、仕事の都合などで日本語を学ぶ機会が得られず、日常会話も十分でないためか、正職員として安定した仕事に就くことが難しく、収入が不安定なため、ほとんどの家庭が就学援助を受けています。また、日本の学校制度の理解も十分でなく、家庭との連携にはさまざまな手だてが必要です。
日本語教室対象者 (1992〜1998.5 1998.9) |
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1992年 |
1993年 |
1994年 |
1995年 |
1996年 |
1997年 |
1998.5 |
1998.9 |
ベトナム人 |
8 |
10 |
9 |
10 |
13 |
13 |
11 |
12 |
中国人 |
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2 |
1 |
1 |
4 |
4 |
6 |
ブラジル人 |
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1 |
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1 |
2 |
ペルー人 |
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1 |
ブラジル帰国 |
1 |
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合計 |
9 |
10 |
12 |
11 |
14 |
17 |
16 |
21 |
日本国籍取得者も含む。 (韓国・朝鮮人の在籍は10名) |
U.児童の様子
大半の子どもたちは、学校生活を送るようになって、日本語での日常会話があまり不自由でなくなってきました。しかし、親たちが日本語をうまく話せず、家庭内ではほとんど母国語(ベトナム語、中国語、ポルトガル語、スペイン語)で会話することもあって、まだまだ語彙数が少なく、自分の思いを正確に伝えることができません。また、母国語にはない日本語があり、同音異義語が多いという日本語の特性で、ものの名前や言葉などをまちがった意味でとらえていることも多いのです。
また、子どもたちは、日本語になじめばなじむほど母国語を忘れ、兄弟同士は日本語で話をし、親子では母国語で話をするといった、あいまいな母国語とあいまいな日本語の日本語の混在した生活をしており、学校での話や連絡が保護者にきちんと伝わっているとは思われません。日本で生まれ育ったベトナム人児童でも、親から話を聞くときはベトナム語で、自分が親に話すときは日本語しかできない状況があります。また、幼児期に父母とともに難民としてベトナムを出て、他のアジアの国を経由して渡日したために、母語がきちんと形成されておらず、母語であるはずのベトナム語をきちんと話せないし、日本語もうまく話せないという児童もいます。子どもたちの成長に連れて、進路の課題、心の悩みなど親子で 十分に話し合わねばならないはずのことができず、頼子関係に亀裂が入りつつあるという 深刻な問題が起こってきています。
また、毎年、夏休みから9月にかけてや、旧正月(テト)のころに、長期(1〜5ヵ月)にわたってベトナムへ里帰りする家庭があります。ベトナム語やベトナムの文化を身につけてうれしそうに帰ってくる姿には心強いものがありますが、一方では系統的な日本語の習得や学校での学習には大きな妨げとなっています。
一昨年、ベトナム人の保護者(3人)が、いずれも入学説明会に参加しなかったため、家庭訪問を行いました。いずれも第1子で、保護者が日本の学校制度を知らないうえ、就学通知の紛失、ベトナムへの里帰り等で不在のまま入学式を迎え、結局は1人が欠席でした。しかし、始業式の前日に通訳(中学生)を伴って登校したため、担任とともに学校についての説明等を行いました。また、ベトナム人保護者会や家庭訪問等でベトナム人の通訳を通じて給食費・学校諸費等の銀行振込の手続き、家庭調査表等の提出書類についても説明しましたが、書類が整うまで1ヵ月以上もかかる状態でした。また、言葉の壁で欠席の連絡もスムーズにいかず、遠足・授業参観などの学校行事もベトナム語に翻訳した文書で連結し、電話で確認するという作業が欠かせませんでした。
また、昨年9月に「帰国」児童1名、今年も4月にブラジル人1名、7月に中国「帰国」児童2名、9月にブラジル人1名が直接編入してきました。受け入れたものの、言葉が通じないので本人の気持ちや様子を知ることも難しく、本人の努力と周りの子どもたちの様々な働きかけ、担任の配慮等があってやっと学級や学校に慣れはじめましたが、母国で学んだことが日本での学習に反映されるまでには至っていません。中国語、ポルトガル語の日本語指導の派遣教員に週2回ずつ来てもらい、来ていただけない日には抽出の日本語指導を行っていますが、とうてい1人の担当では十分な指導ができていません。
V.日本語教室の活動
親が日本語を十分に話せないために、家庭で日本語を使うことが少なく、日本語の語彙数がまだまだ少ないようです。また、ベトナム人児童は、漢字に対する抵抗が強く、漢字が十分に読めないこと、日本語での抽象的な思考が難しいことなどで、学年が上がるにつれ社会・理科・算数の文章題などが理解できないことにつながってきています。中国人児童の場合は、読みや使い方は違っていても同じ漢字文化圏であることが、やや抵抗を少なくしているようだが、同音異義語、1つの漢字の複数の読み方があることなどの言葉の壁を乗り越えることは簡単ではありません。
さらに、親は日本語を十分に話せないので、家庭内で学校の様子などについて話すことが少なく、ましてや宿題を教えることもできず、日本人の子どもたちとのギャップは大きいようです。低学年期には、本人のがんばりやちょっとした配慮で、あまり大きな違いを感じなかったのに、学年が上がるに連れて周りの日本人との差が開いていくのは、こうした学習環境の違いがあるからと思われます。
そこで、学級担任や保護者・本人と相談のうえ、子どものつまづきや課題に応じて、教科(日本語・算数・社会等)を選び、形態も学級から抽出指導か入り込み指導かを選択して、ベトナム語・中国語・ポルトガル語の通訳(日本語指導)とともに指導しています。抽出指導では、学年を下げた教材を使ったり、読みにくい漢字にはルビをふり、読解の手助けにしたり、辞書等を使って意味や熟語を調べて漢字の練習をするとともに、間違って覚えている日本語を修正しながら、語彙数を少しでも増やしたいと願っています。また算数の指導については、算数の基礎学力の充実のため、文章題の指導などに可能な限り実物を使い、言葉の理解の不十分さを補おうとしている。日本語教室で学ぶことにより、わかる喜びを感じはじめ、他の教科の学習にも意欲を持ちはじめている子もいます。
入り込み指導では、各教室での授業の進度に合わせて、学級担任の指導内容がよりスムーズに理解されるよう補足説明を行ったり、つまづきの早期発見・早期治療に努めています。そうすることで、学習への意欲や関心が高まり、積極的に授業に参加できるようにもなっています。
また、日本の生活習慣や学校に少しでもはやく慣れさせるために、日本語指導を行っています。
・全く日本語に触れないまま渡日した子どもたちには、日本語のあいさつから始まる日常会話、「あいうえお」の読み書きから始めています。「ひらがな」「カタカナ」「漢字」の3種類をマスターさせるのは、非常に困難です。
・学校生活や家庭生活等、身近なことで話し合ったり作文を書いたりした。
○年生になって、ゴールデンウイーク、母の日、運動会、父の日、虫歯予防デー、国際交流親子の集い、1学期の反省、夏休みの生活、食欲の秋、スポーツの秋。
・日本の自然について(春・夏・秋)………花、果物、梅雨、更衣、雷。
・文法(助詞)………短文を作ろう。
・言葉遊び(低学年)………しりとり、マジカルバナナ、なぞなぞ等。(週21時間)
学級担任と日本語教室担当との意思疎通を図るために、必要に応じて「日本語教室担任者会」を開き、子どもたちの生活の様子、学習の様子、家庭の状況などを交流し合い、日本語指導の方法、内容などについても話し合いを続けている。そして、必要と感ずれば、学級担任と協力して随時家庭訪問を行っています。
<日本語教室の活動日誌>1998年度
4/8(水)ブラジル人A転入(1年)
13(月)日本語教室新旧担任引き継ぎ会担任者会
14(火)ブラジル人の日本語指導開始(B先生、火・木)中国人の日本語指導開始(C先生、火・金)
21(火)ブラジル人の家庭訪問
23(木)中国人の家庭訪問
24(金)ベトナム人の家庭訪問(老原団地他)
28(火)ベトナム人の日本語教室開講式(D先生)
6/5(金)外国人子女教育連絡協議会(高美南小)高美中・高美小・高美南小・志紀中・志紀小
ベトナム人の日本語指導に関わって研究協力体制づくり
20(土)外国人子女教育連絡協議会(高美南小)高美小・高美南・志紀小
28(日)国際交流親子の集い(神戸市立青少年科学館)親子6名、教師2名参加
29(月)民族クラブ・日本語指導者交流会(教育センター)
7/6(月)ベトナム人2名ベトナムへ一時帰国
日本語教室担任者会(1学期の子どもの様子、懇談会について)
ベトナム人門真市より転入(2年)
中国人姉弟中国黒竜江省より転入(3,6年)
7(火)日本語教室お楽しみ会(ベトナム人、中国人、ペルー人参加)
10(金)外国人子女教育連絡協議会(高美南小)。ブラジル人の懇談会(通訳依頼)
14(火)ペルー人の懇談会(通訳依頼)
15(水)中国人の懇談会(通訳依頼)
16(木)ベトナム人の保護者会(懇談会通訳依頼)
21(火)日本語教室学習会(中国人・ペルー人参加、通訳依頼)
27(月)日本語教室学習会
28(火)日本語教室学習会
29(水)日本語教室学習会
31(金)日本語教室学習会(通訳)
9/1(火)ブラジル人転入(5年)
4(金)中国人の日本語指導(火・金)
外国人子女教育連絡協議会(高美南小)
7(月)中国人の日本語指導E先生(月・水)
8(火)ブラジル人の日本語指導(火・木→月・木)
16(水)ベトナム人の日本語指導(火・水)
18(金)ベトナム人2人帰国
19(土)外国人子女教育連絡協議会(高美南小)
24(木)ベトナム語指導
外国人子女教育連絡協議会(高美南小)
lV.日本語教室の放課後活動
ベトナム人児童、中国人児童にとっては、放課後の補充学習は不可欠です。本読み、教科書へのルビふり、ノート、鉛筆、三角定規、コンパス等の持ってくる物の確認、宿題点検等々のさまざまな活動があります。特に、途中の学年で渡日した子どもたちについては、低学年期の漢字が身についていなかったり、かけ算の九九を覚え切れていなかったりと、やればやるほど新たな課題が見えてきます。短い時間でも、意欲的に放課後学習にがんばる子どもも出てきています。
また、放課後の日本語教室は、子どもたちがベトナム人、中国人として自分を伸び伸びと表現できる学校の中での唯一の場所です。高学年の子どもたちが低学年の子どもたちに宿題を教えたりして、助け合っている姿も見られます。狭いながらも日本語教室の部屋が確保されたため「自分たちの部屋」という意識が生まれ、学校帰りには必ずのぞいて帰る習慣がついている子もおりますし、卒業生がのぞいていくこともかなりあります。このことの意義は重要です。
また、家庭状況を把握したり、家庭学習を確立するためには、学級担任とともに、おりにふれて家庭訪問を行っています。保護者との対話が学校や日本語教室への信頼を増していくのです。このように日本語教室の放課後の活動は重要ですし、今後とも内容の充実をはかりながら続けていく必要があります。
(低学年学習会―金曜日放課後)
(高学年学習会―月曜日放課後)
あとは、子どもたちの要望と必要に応じて随時。*ブラジルの子どもたちへの放課後指導はできていません。
V.放課後の自主活動(ムーランクラブ)
日本に十数年住んでいても、日本語を学ぶ機会が少なく、観たちはなかなか日本語になじめません。逆に子どもたちは、日本の生活になじむほどにどんどん母国語を忘れていってしまいます。子どもたちに自分の願いを伝えきれない親と、親に自分の気持ちを伝えられない子どもたちという悲しい関係が家庭内で起こっています。子どもは日本で生まれ育っても、親が日本語が十分でない場合も同じです。子どもたちに、ベトナム語や中国語を覚えてほしい、少しでも中国・ベトナム文化に触れてほしいというのは観たちのささやかな願いです。
そこで、日本語教室では、子どもたちが中国・ベトナム文化に触れる機会を少しでも持ってほしいと放課後の「ムーランクラブ」の活動を保障してきました。中国語・ベトナム語を教えたり、中国・ベトナムのお話を聞いたり、新聞や雑誌から中国・ベトナムの記事を読んだり、中国・ベトナムの土産話を聞いたり、中国・ベトナムの遊びをしたりしています。ベトナムの民族文化を伝えるために、ノンの踊りやムーランの踊りの練習をしてい
ます。また、学校外の中国・ベトナムの仲間の交流会などにも参加し、ウリカラゲモイム
―民族文化フェスティバル―にも参加しています。年間を通して指導していただける民族講師が見つからないので、地域の青年(卒業生)や保護者の手助けを得ながら日本人教師が指導しているので、限界があります。不定期にですが、ベトナム人の学生や大阪外大の学生に来てもらってベトナム語の学習を行いはじめました。また、中国やベトナムへの里帰りした子どもたちは、中国語やベトナム語の語彙が増しています。また、学校のこと、家のことなどを出し合ったり、民族文化をいっしょに学んだりする中で、子どもたちの結びつきが益々強くなっています。ブラジルやペルーの子どもたちの放課後のケアは十分ではありません。
また最近では、卒業した日本語教室の子どもたちが、中学校の授業が早く終わったときなどに、何気なく訪ねてきてくれることがあります。中学校の様子を話したり、弟や妹の様子を見に来たり、また、「ウリカラゲモイムにいっしょに出たい」等と言ってきたり、この子たちにとって日本語教室とはどれだけの位置を占めていたのかをうかがい知ることができます。子どもたちに寄り添って、活動し続けることの大切さを感じるこの頃です。
お互いを仲間として意識しあったり、家族との絆を強めるためには、固有の民族文化に触れる機会と場所を学校を始めあらゆる所に保障していく必要があります。ですから、今後ともムーランクラブの活動を充実させていくとき、中国語やベトナム語、ポルトガル語を話せる教師、中国やベトナム、ブラジルの民族文化を伝えられる民族講師の必要性が出てきています。
(毎週金曜日放課後→木曜日放課後)
運動会が5月実施のため、5月後半から活動開始。
・5月:部長、副部長を決める。1年間の活動計画。
・6月:国際交流親子の集いへの参加。
・7月:お楽しみ会、夏休み勉強会。
・8月:夏休みの活動。
・9月:夏休みの暮らし、ウリカラゲモイムへの参加について話し合い。
・10月:「ノン(笠)の踊り」練習。
・11月:ウリカラゲモイム練習、参加。
◆国際交流親子の集い(6〜7月)
毎年渡日の親子と教師で参加。
◆ウリカラゲモイム(民族文化フェスティバル)(11月)
6年前から参加、ベトナム・中国・ブラジルの子どもたちが参加。
◆中国、ベトナムの子どもたちの集い(8月)
中国・ベトナムの子どもたちと教師参加
◆府外教子どもの集い(10〜11月)
ベトナムの子どもと教師参加(第1回)
Vl.日本語教室保護者会
日本語が十分に理解できず、学校の様子も分からないので、PTA活動や参観日、懇談会等の学校行事にも足が遠のきます。そんな保護者たちのために通訳を頼んで、年3回「日本語教室保護者会」(ベトナム)を行い、学校行事、提出書類の書き方、子どもたちの学校生活の様子について説明したり、ビデオなどで紹介したりします。夏休み前には、林間学舎や水泳指導や夏休みの補充学習などの計画を説明しています。そして、成績懇談や進路の相談を行い、また、家庭や地域での親の悩みも交流しています。そのおかげもあって、参観日や懇談会に参加するベトナム人の保護者も増えてきています。
保護者との話し合いの中で、日本での生活が長くなるにつれて親の生活観とズレが起こっていることなどの話が出されました。日本の学校の様子を知り、学校の教育方針が少しずつ分かってくる中で、子どもたちの行動のズレにも気づき、子育てを見直すようにもなってきました。
必要に応じて通訳を依頼し,家庭訪問を行います。あるときは、仕事の悩みや子どもたちの進学(中学校、高校)の相談、住宅の相談、永住権申請の相談等も受けたりします。社会の仕組み、学校制度が違うので分からないことばかりなのです。子ども以上に親が不安になっているのです。さらに、子どもたちの問題行動への対応には、学級担任と日本語指導担当とが協力して、家庭訪問等を行って問題解決に当たっていますが、通訳を依頼せねば親とのコミュニケーションをはかりにくいような複雑な課題が多くあります。言葉が分からないまま日本で暮らすのは大変なことだと実感しています。
Z.日本人の子どもたちにとって
今学校では、一人ひとりの子どもたちの個性を尊重し、どの子も個性を活かして伸び伸び育っていけるような教育を目指しています。また、21世紀を前に、国際感覚を身につけた日本人になることが要求されています。わたしたちの学校では、目の前にいる外国の子どもたちの名前を呼び、名のることから異文化との接触が始まります。「名前」こそ民族と文化のちがいのシンボルなのですから。
日本で生活するために、必死に日本語を学ぶ外国人の子どもたちの姿を直接見聞きしたり、毎日接することは、学ぶことの大切さを知るとともに、日本語の特性を知ることになります。また、共に生活する中で、今まで感じとれなかった風土や文化のちがいからくる生活習慣のちがい、ものの感じ方やとらえ方の違いに気づいてきます。日本で生まれ育った子どもたちにとっては当然と思われることが、そうでないことにも気づかされます。異国の文化に触れることによって、自分たちの文化の大切さに気づいていくのです。
また、韓国・朝鮮やベトナム、中国、ブラジルの遊びや歌を一緒に楽しむことで、より深く友達のことを知ることができます。教科書ではあまり取り上げられていない韓国・朝鮮、ベトナム、中国、ブラジルのお話や歌やメロディー、リズムに触れることは、その文化を理解する糸口になります。
こうした毎日の生活の中で、日本とちがった文化に触れることは、ちがった文化に対する違和感をなくし、よいものを自分の中に取り込んで、ものの見方、感じ方、表現の仕方をより豊かな人間性をつくっていくものと思われます。
こうした目的のために、本校では年間計画に基づいて「アジア文化に親しむ会」等を行い、また、授業の中で、韓国・朝鮮、ベトナム、中国、ブラジルなどの歌、童話や民話、遊び等を積極的に取り入れるなど、本校に在籍する外国人の子どもたちにつながる文化に触れる取り組みを行っています。このような取り組みの中で、自分たちの国である日本や日本文化についてより深く知ることができているように思います。
ときには、子どもどうしのトラブルがあります。物珍しそうに取り囲まれたり、「ベトナムへ帰れ!」と言われて、心が大きく傷ついたりしたこともありますが、学級や学年の粘り強い取り組みでお互いが少しずつ理解し始めています。「この学校で、いろんな子と出会えてよかった、楽しかった。」と言えるような学校にしたいと願って取り組みを続けています。
[.今後の課題
ベトナム(12入)、中国帰国(4人)、中国(1人)、ブラジル(2人)、ペルー(1人)のように、さまざまな事情と状況におかれた渡日の子どもたちが本校には在籍しています。学級担任等のこの子たちを中心にすえた学級集団作りを初めとする並々ならぬ努力、日本語指導対応教員加配の位置づけによる日本語指導ならびに生活指導、通訳の派遣、子どもたちを受け入れる学校体制作り、ならびに地域社会の理解と協力の中で、何とか子どもたちが生き生きと学校に通って来ているのです。
そして、日本語指導を中心とした子どもたちを学校や地域に位置づけていく取り組みを進めれば進めるほど、新たな課題が見えてきます。日本語が十分に話せないため、安定した仕事にも就けず、職場を転々としている親の問題。また、子どもたちの成長とともに親との意思疎通がうまくいかなくなってきている問題。中学校・高校と進学していくための、また、日本社会で生き抜くための基礎学力が十分身につけさせられないまま卒業させざるを得ない学校教育の課題。日本の生活への適応指導をするあまり、彼らのベトナム人、中国人としてのアイデンティティを奪うことにはつながっていないか。周りの日本人児童が、ともに生活する中で、さまざまなちがいを認め合い、彼らに対する偏見や差別意識が育たないような指導のあり方等々。これらを思うとき、来年度も本校での日本語指導を進め、在日外国人教育、国際理解教育をさらに進めていくためには、以下のことが必要と思われます。
〈課題〉
○今後ともこのような多様化に対応して、日本語指導体制を維持するとともに、ベトナム語、中国語、ポルトガル語等の必要に応じた言語指導に対応できる教員を確保する必要があります。また、子どもたちの生活や文化と結び付けてベトナム語や中国語などの母国語と対応した日本語指導教材を作成する必要があります。
○学校と保護者との意思疎通を密にするため、家庭訪問、懇談会等の必要に応じて通訳を確保すること、また、学校から保護者に配付する文書の母国語対応の手引き書が必要です。さらに、保護者が地域で日本語を学べるような手だてが必要です。
○子どもたちの個性を尊重するとき、在籍する外国人の子どもたちに日本語を教えさえすればよいということにはなりません。母国で学んだ言語や文化を活かすための自主活動を保障する必要があります。
○周りの日本人の子どもたちが、中国やベトナム、ブラジル等の文化に触れられるような教材・教具を充実させ、展示したり、掲示したりするスペースの確保が必要です。
○最後に、近年本校を卒業して中学校から高校に進学できない、進学しても中退する傾向があります。日本語をきちんと習得しないままに社会へ出ざるを得ないことは大変なことで、彼らにこそ高校での教育が必要だと思うのですが、日本語の学力や経済的な理由で、進学を断念しているケースが多くあります。彼らには高校受験上の一定の配慮はありますが、十分でなく、また、入学後の保障も十分ではありません。高校には渡日生徒の特別入学枠を設け、ベトナム語や中国語等で入学後のケアをするシステムが必要であると思います。
むくげ158号(1999.4.15)より