各地の在日朝鮮人教育実践 第1回

大阪府外教
大阪府在日外国人教育研究協議会)
活動の現状と課題


 大阪府内の各地域に外国人教育研究組織がつくられ、大阪府外教に結集して活動をすすめるようになってから8年になる。2000年9月現在、24単位外教が結集しさまざまな活動をすすめている。

 これまで一貫して追求してきた実践課題とその成果、さらに今日的課題について、大阪府外教伏見泰寛事務局長にインタビューし、まとめてみた。以下はその報告である。

                                 稲富 進

 

T 大阪府外教の実践の積みあげと今日的課題について

 

 大阪における在日外国人教育は、部落差別をはじめあらゆる差別の克服をめざす人権教育運動と結び合って、在日韓国・朝鮮人教育を中心に発展してきた。1960年代後半、高槻第六中学校では、在日韓国・朝鮮人生徒たちが自らの葛藤のなかで、それをさまざまな行動で現していた。教職員集団は、この子どもたちを力で押さえつけるのではなく、「荒れている背景にあるものは何なのか」を探ることから始めた。その過程で、在日韓国・朝鮮人の生活実態や日本人の差別意識、子どもたちの言いようのない不安感など、民族差別が大きくのしかかっている実態が明らかになってきた。そこから在日韓国・朝鮮人や被差別の立場にある子どもたちを中心にすえた実践が取り組まれていった。

 1970年代に入ると、大阪府内各地で在日韓国・朝鮮人教育が取り組まれていく。大阪市内では、1972年に長橋小学校に民族学級が開設され、その実践は大阪府内に大きな影響を与えた。被差別部落の子どもたちにとっての課題が「差別を見抜き、差別を許さず、差別に負けない部落解放の担い手としての学力を身につける」ことなら、在日韓国・朝鮮人の子どもの課題は何か。彼らにどんな「学力」を身につけさせればよいのか…。同和教育の実践を通して、在日韓国・朝鮮人教育の課題をつかんでいったのである。

 そして、この間一貫して追求してきた教育課題は次の七点であった。

 @子どもの現実・保護者の願いを正しくとらえること。

 A正しい韓国・朝鮮認識を育てること

 B民族的アイデンティティを育み、自分らしく生きること

 C民族学級や民族クラブの活動を通して同胞集団のつながりを深めること

 D在日韓国・朝鮮人の子どもたちとともに歩む仲間を育てること

 E進路保障(自らの進路を切り拓いていく力をつけること)

 F教育条件の整備

 これらの研究課題に基づいて、多数の自主教材が創造され、授業や実践の研究が進められてきた。さらに、在日韓国・朝鮮人の子どもたちの集い、民族学級・民族クラブの活動、朝問(文)研活動、高校での韓国・朝鮮語授業などが生み出されてきた。

 1980年代に入り、大阪府内の学校園では、中国やベトナム、フィリピンなどから渡日した子どもたちや海外帰国の子どもたちの課題を見つめ、教育内容や教育条件を充実させる取り組みが進められている。新たに渡日した子どもたちの置かれている社会的・教育的環境は、まさに在日韓国・朝鮮人が置かれてきた環境と重なり合うところが多くある。この子どもたちが、日本で生活していく時、日本語を習得することは重要であるが、同時に自己実現ができるためには、母語・母文化を大切にした取り組みが必要である。その具体的な取り組みとして、国際交流クラブや中国文化研究会などの自主活動や子どもたちの文化や歴史的背景をふまえた教材づくりを進める必要がある。

 「人権教育のための国連10年」にうたわれているように、すべての子どもたちの人権を尊重し、人権文化に満ちあふれた学校づくり、人権尊重を基軸に据えた参加体験型の授業づくり、多文化共生のためのシステム改革提案などが府外教の担うべき課題となっている。

 

 

U 具体的な活動内容について

 

(1)調査・資料収集

 各単位外教が在日外国人教育を推進するにあたっては、現状や実態把握とデータの正確な分析が求められる。大阪府外教では「在日外国人自動・生徒の在籍実態」「交流行事の進め方と課題」などの調査・資料収集をすすめてきた。また、「調査活動の重要性と個人情報保護」の観点から学習をすすめ、個人情報保護条例に抵触することのないようつとめつつ、現状分析と課題を共有し、取り組みに生かしてきた。

 

(2)研究活動

 

@研究集会

 

 第7回研究集会(南河内集会)は、99年6月16日(水)、19日(土)の二日間、全体会は森ノ宮ピロティーホールで、分科会は羽曳野市立埴生小学校を会場に開催された。二日間で延べ2000名(全体会1100名、分科会900名)の参加者を迎え、熱心な討議が行われた。

 全体会の文化公演は、ソプラノ歌手の宋茜(ソン・チェン)さんとギターリストの小野剛藏さんによる「日本と中国の歌」のコンサートが行われた。二人のトークに会場は笑い声があふれ、明るい雰囲気に包まれた。

 つづいて、マレーシアからの渡日した高校生、日本人高校生ら5人の発題者と易寿也さん(府立松原高校教諭)をコーディネーターとする記念シンポジウムが催された。この「子どもたちのシンポジウム」では、それぞれが自分の生いたちや学校生活、今考えていること、悩んでいること、将来の夢などを熱く語り合った。

 分科会では南河内各市町村をはじめ、府内全域から多くの参加者が集まり、25の実践報告をもとに実践交流がすすめられた。また、「地域における「手作りの日本語教室」に学ぶ」「就学前における多文化共生教育」「参加・体験型学習を取り入れた多文化共生教育」をテーマとする特別分科会では、今後の実践の方向性を確かめる熱心な討議がすすめられた。

(第8回研究集会(泉北大会)は今年6月16日(金)、17日(土)の二日間、全体会は森ノ宮の府立青少年会館で、分科会は堺市立工業高校で開催され、延べ1600名(全体会1000名、分科会600名)の参加者があった。全体会ではボードビリアン、マルセ太郎さんの記念講演「マルセ太郎のbe動詞」が行われ、続いて「泉北地区の子どもたちからのメッセージ」で「ハギの会」高校生たちの発言があった。――「府外教通信33号」より。編集者付記。以下同じ)

 

A研究委員会

 

*多文化共生の学校づくり研究委員会

 99年秋、冊子<多文化共生のカリキュラム>「『ちがう』っておもしろい――多文化共生の学校づくり」が発行された。大阪府外教が、その発足時より課題とし、『21世紀を展望する多文化共生教育の構想』の中でも提言した「多文化共生の学校づくり」の第一弾でもある。

 現在、府下の多くの学校で中国やベトナムなどアジアの子どもたち、ブラジルやペルーなど南米の子どもたち、その他多くの国から、そして、「海外帰国児童生徒」など多様な文化を持った子どもたちが日本の学校に学んでいる。

 特に、日本語が不自由な児童生徒や保護者を迎えて、まず最初に「個別対応」―日本語指導・通訳の依頼等々―に終始しがちな時期(段階)がある。その次には、日本の子どもたちが、彼・彼女らの国や文化などを学習し理解し、そして、外国の子どもたちが日本の学校や文化を学習し理解をすすめるという段階がある。

 しかし、それだけでは互いに認め合い高め合うというところまでは行かない。お互いのアイデンティティを豊かにしながら、お互いの関係性を高めるためには、実際の学校生活の中で、人権を大切にして「共に生きる」ということの中身を共に考え学び合うことが求められる。

 また、大阪においては、長く取り組まれてきた在日韓国・朝鮮人教育の歴史がある。その積み上げの中に、現在の在日外国人教育・多文化共生教育を位置づけることで、さらにその内容が広がり、深まっていくのだと考える。

 さて、今年度は、「多様性の教育」の学習会を行っている。

 「多民族・多文化共生の教育」が一定のグループを基礎(単位)として発想していくのに対して、「多様性の教育」は一人一人の個人を基礎(単位)として、そのお互いの「ちがい」を認め、差別を許さないということをめざしている。来年度も、引き続き学習を進めていくことを課題としたいと考えている。

 

*多文化共生の日本語教育研究委員会

 府外教では、新たに渡日した子どもたちが、日本の社会で生活する中で、日本語の力を身につけ、自ら生きる力を育んでいくと同時に、彼らの母語・母文化を大切にした日本語教育のあり方を研究する目的で、本研究会を発足させ、三年がたった。昨年度は、茨城県での「先行学習」の実践に学びつつ、教科書に載っている教材の母語訳テキストと、母語での学習支援教材(ワークシート、録音テープなど)をつくり、いくつかの学校で実践していただいた。(詳しくは府外教がつくった冊子『21世紀の日本語教育』参照)

 しかし、一方で、母語教材が有効に活用できる子どもは非常に限られているということや、渡日して間がない段階での初期の日本語教育が不十分であることが、その後の日本語の力が十分つけられない要素となっているという現実もある。また、教科書や教材に取りかかる以前に、基礎的な知識が不足していたり、学習に向かう前向きな姿勢を身につけさせる必要のある子どもがあまりに多くいる。それは、個々の子どもの「学力」の問題以前に、日本の学校のシステムの問題抜きには考えられない。例えば、不十分な第二言語(日本語)で第三言語(英語)を学んでいるという問題がある。一部には自分でこの問題をクリアして高い語学力を身につけている子どももいるが、圧倒的に多数の子どもたちは、このシステムの中で語学力がつかず、自信をなくしている。一方で、今の入試制度の中で、多くの渡日生徒は進路を閉ざされている状況にある。知識や中身を問う前に、日本語の問題文の理解が求められ、日本語の解答が要求されるからである。受験時の配慮だけでは不十分で、渡日生徒を受け入れる根本的なシステムの改革と学習環境の整備が求められている。

 この研究委員会では、今年度、渡日の子どもたちの「学力」に関わって、以上のようなさまざまな課題について論議してきた。そして、初期の日本語教育の大切さを考えながら、母語・母文化を大切にした学習教材や学習場面をつくられたいくつかの学校の実践をまとめることができた。「自分の母語や母文化が大切にされている」と実感することが、その子どもの前向きな学習意欲につながることが多くの学校から報告された。協力していただいた各校のさまざまな実践に学びつつ、これらの教材づくりや取り組みのネットワークをさらに広げていきたいと考えている。

 

*在日韓国・朝鮮人教育教材編集委員会

 この委員会では、98年度より、府内すべての学校で実践されるべき教材集をめざして取り組んできた。とりわけ「総合的な学習の時間」等で活用されるべき教材として、大阪市内のコリアタウンのフィールドワークを取り組む子どもたちの様子を描いた教材をあらたに書き下ろすことができた。また、各方面の協力を得て写真取材を行い、2月発行にいたった。

 99年度からの課題としては、大阪府内各地域のフィールドワーク集の発行をおこなうことになった。府内七地区および大阪市内のフィールドワーク集を完成させるため、大阪市外教の協力もえて編集に取り組んだ。2000年度の発行を目標にしている。

 「在日韓国・朝鮮人教育教材集」の概要は次のようなものである。

・小学校高学年・中学校を対象にし、実際にフィールドワークが実施できるもの

・大阪府内七地区と大阪市内を対象にした教材

・大阪各地にある古代から現代にいたる韓国・朝鮮文化を学ぶことのできる教材

・フィールドワークをおこなう中で人との出会いや生き方を知る教材

 具体的には、豊能地区は大阪空港、三島地区は高槻地下倉庫、北河内地区は王仁公園、中河内地区は旧生駒トンネル、南河内地区は近つ飛鳥博物館、泉北地区は人権平和子どもセンター・「故郷の家」、泉南地区は貝塚蕎原、大阪市内は平野・猪飼野、などを中心にフィールドワーク集を作成する。

 

B府外教講座

*渡日担当者実践交流会(三回連続)

 新たに渡日をし、さまざまな文化を持つ子どもたちは、日本の学校園に編入学した時、日本語が理解できないことだけではなく、学校園の異なる文化にもとまどっている。今回は渡日した子どもたちの担当者を対象に、日本語教育の進め方についてお二人の経験豊かな先生方から具体的なお話とマニュアルをもとに日本ご指導の実際の場面を見学した。講師として4月には堺市立百舌鳥小学校も内海寛治さんを、5月の二回には大阪市日本語指導ボランティアの宮阪蓉子さんにお願いした。参加者からは、非常に具体的な内容で明日からの日本語指導に生かせるという声をいただいた。

 

*研修旅行事前学習会

 99年7月に「アイヌ民族問題と異文化交流」をテーマに「北海道アイヌ文化研修旅行」の事前学習会を行った。講師に「チコロナイ友の会」の武田繁典さんを招き、アイヌ民族の森を回復していく市民運動について説明を受け、アイヌ民族問題を学習した。

(2000年度は「台湾研修旅行」で「台湾出兵1874年」「霧社事件1930年」の遺跡や澎湖島を見学して、台湾から見える日本の歴史についての研修旅行が行われた。編集者付記)

 

Cブロック進路開拓討論集会

D多言語による高校進路ガイダンス

 府外教から加盟全単位外教に、多言語による資料の情報提供を行った。豊能と三島については地区外教として、八尾は単位外教として、はじめて実施された。なお、東大阪市外教でも中国の子どもたちを対象に進路ガイダンスを行っている。

(編集者付記)2000年7月16日に府立桃谷高校で「第2回多文化進路ガイダンス」が開催された。中学卒業後の高校進学をはじめとする進路情報を、中、朝、フィリピン、ポルトガル、スペイン、タイ、ベトナム、英、日の9カ国語で資料提供し、高校、職安、府労働部の職業技術専門学校の説明が行われて、生徒保護者50人ほか多数教職員の参加があった。

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