全朝教大阪(考える会)2000年度第2回シンポジウム報告
11月10日 中央青年センター
教育改革と在日朝鮮人教育を考える 
 「地域に開いた学校づくり」
地域の朝鮮人の声をどのように学校に反映させるか
朝鮮人生徒の学ぶ意欲と希望を保障する学校体制は
 
   報告 谷 博さん(大阪府立桃谷高校昼間定時制)
      姜聖律さん(カン・ソンニュル  同 夜間定時制)
 

 シンポジウムは、報告者の谷さん、姜さんのほか椎口育郎さん、萩原直樹さんら四人の桃谷高校の教員が中心になって開かれた。それぞれに個性あふれた語り口の中で、色々なニュアンスの中から、教育の根本的な問題が浮かび上がり、不登校生徒の問題、朝鮮人教育の中での一番大切な問題について、議論が交わされた。桃谷高校からは色々詳細な資料も準備していただいて、充実した内容のシンポジウムになった。これをひとつのきっかけにして、生野地域での小中高の間に一層の連携が可能になるように望みたい。また、府下各地の小中高各学校での総合の時間をはじめとする新教育課程に向けた改革の中で、ここでのような深い教育の本質に関わる視点が生かされるように努力したい。なお、以下発言の要約について、文責は編集委員会にあります。 (編集委員会)
 
<冨田(東小橋小)>
 
 日本の教育は21Cに向けて、戦後50年を経て、大きな転換点を迎えています。
 (1)2002年の完全学校5日制の実施と学校・家庭・地域の役割と連携のあり方
 (2)特色ある学校作りのあり方
 (3)地方分権と学校・教育委員会のあり方
 (4)教育課程の改定に伴う、特に「生きる力の育成」に関わって、
   @「学ぶ」ことと「学び合う」ことのつながりを大切にしたカリキュラム作り
   A保護者と地域との結びつきを深めていくカリキュラム作り
   B子どもの思いや願いと結びついた総合的な学習の時間の創造、など、
このような改革を視野に入れた教育課程の創造に向けて、学校は動き始めています。

 全朝教大阪(考える会)は、この教育改革をその目的に則して前進させる上で、これまで蓄積されてきた大阪の在日朝鮮人教育が大きな役割を果たすこと、と同時に、在日朝鮮人教育の制度的保障がより前進することをめざしています。そこで、今日時点での課題を明確にし検討するために、この連続シンポジウム「教育改革と在日朝鮮人教育」を提起しました。

 シリーズを簡単に振り返ってみますと、

 ◆第1回「生きる力を育むことと本名を呼び名のる教育」=国籍や民族の違いを持つ子  どもたちそれぞれにとって「生きる力」とは何か。アイデンティティーとは何か。そ  して、それはどのようにして育まれていくのか。(1999.7.2)

 ◆第2回「新たな学校文化の創造と民族学級」=教育改革の中で、新たな学校像をどう  描くのか。学校の中にどのような教育文化を育てるのか。今日、民族学級は学校の中  にどう位置づき、学校に何をもたらしているのか。(1999.9.17)

 ◆第3回「総合的学習と在日朝鮮人教育実践」=新教育課程の中で取り組まれる総合的  学習をどう実践するのか、内容や方法を巡って学校現場での議論や試行が始まろうと  しています。これまでの在日朝鮮人教育実践の財産をどう生かし、何を創造していく  のか。(1999.10.22)

 ◆第4回「地域に開かれた学校と在日外国人保護者」=教育改革のキーワードである  「地域」に含まれる内容は何か。地域住民や保護者の中に在日朝鮮人・外国人住民はど  う位置づくのか。多文化多民族共生の地域のあり方とは。(1999.11.26)
と積み重ねてきました。

 本日のテーマ 「地域に開いた学校作り」は、教育改革のキーワードである「地域」に改めて着目し、在日朝鮮人教育の視点から学校のあり方を問い直したいと思います。
 
<谷(桃谷高校昼間定時制)>
 

1 単位制高校
というのは、基本的には大学と同じシステムです。これは、法律で定められた学校の種類であって、例えば私立高校などで「単位制」とうたっているところでも、法的には実は「通信制」だというところもあります。桃谷高校は現在定時制・通信制の二課程それぞれ昼夜があって、計四部に分かれています。通信制は、レポート学習が中心で、スクーリングもありますが、全日制や通信制とは根本的に違うシステムなのです。しかし、通信制でも、最近は「スクーリングをもっと増やしてほしい」という要望が出るほどで、以前とは様変わりしてきています。
 この単位制高校という学校のありかたについては、教育運動、教組運動の中からは、当初、否定的に見ていたものでした。私自身もそうした意見を述べたことがあります。
 しかし、例えば、かつて滋賀県にあった高校が、「狭域通信制」の学校であるのに、大阪府寝屋川市の専門学校から生徒を送られていて、それが法律違反だとして問題になったことがあるように、法律に反してでも多くの生徒が遠方の学校に行くという、とにかく大きなニーズがそこにあることがわかります。このように「それ自体は否定的かもしれないもの」が「多くの人によって求められている」とういう構造があるのです。
 現在、定通とも昼間部では入学志願者の倍率が2倍以上、定通とも夜間部でも1倍をこす志願者があって、入試はすべて競争状態になっています。生徒数2800のほかに、講座聴講生が約400おり、実に3000をこす生徒が通っていることになります。このように多くのニーズを集めている桃谷高校ですが、この単位制高校が存在する根拠というものも、手放しで喜ぶことでもなくて、やや危ういところもあると認識しています。
 
2 入学生徒の6割5分がこれまでに不登校を経験した生徒です。中学の先生や高校の先生、親などに聞いて桃谷高校を知ったという者がそれぞれ二割以上を占めています。志望動機についてみると、桃谷高校の魅力をあげる者、前の学校が合わなくてやむをえずという者がそれぞれ四分の一、とにかく高校卒業資格を得たいというのが半分近くになります。
 年齢の上でも多様な生徒が集まるので、難しい点があります。喫煙の問題が難点で、午前中は禁煙にしていますが、午後になると生徒が混ざり合ってわからない状況です。入学しても、来ない生徒もいるわけで、一ヶ月くらい来なくても、あまり頻繁には連絡をとらない場合もあります。もとの学校で色々と押しつけられ規制されてきた生徒が、ほって置かれた上に、学校に来て見れば実に混沌とした様子というので、不登校の生徒にはかえってよいのかもしれません。学校の中で生徒がもめることはありませんが、外ではトラブルもあります。通信制の生徒中心に、保健室によく来るグループもできています。やはり学校ですから、よく言われるように「自分のペースで」すきに勉強できるというわけではなく、学校の中では「学校のペース」に従わせることになってしまいます。       
 
3 地域との関係ですが、元来高校というのはこれまで地域に対してなかなか開かないで来ました。桃谷高校は府下全部から生徒が来ますから、地元の生野の地域との関係はそのままではかえって薄くなるのが当然です。この点、桃谷高校では生涯学習コースや公開講座を設けて地域とのつながりをつくっています。日本語の講座には、韓国や中国から新たに渡日したいわゆる「ニューカマー」の人々が大勢来ています。
 
4 朝鮮人生徒は、通信制では約100名のうち6割以上が本名で、これは朝鮮高級学校からの生徒が多いためです。昼間定時制では20名中数名、夜間では40名中30名ほどが本名です。入学の時には、本名で呼びたいということで、学校としての文書も配布して呼びかけていますが、本名については途遠しというのが実状です。教員自身の感覚もそんなに変わったとは思えません。
 東京の大妻女子大への入学志願の問題で、東京の通信制高校である上野高校のことが問題になったことがありました。朝鮮高級学校から編入して上野高校で高卒の資格を得ていたことが文部省で否定されたのです。当時の赤松文部大臣も文部省の見解とは対立する考え方を述べていましたが、その後も状況は変わっていません。朝鮮高級学校からの編入という制度は大検受検資格の緩和(日本の中学校卒業資格が不要になった)によって変わるでしょうが、朝鮮高級学校卒業を高校卒業とみなさない国立大学や医療系専門学校は依然として存在しています。
 このほかに、朝鮮語の授業についても、積極的にすすめています。
 
5 どのようなシステムをこしらえるにせよ、その中に教員のエネルギーが吹き込まれないと、どんどん形骸化してしまいます。桃谷高校も、今後むつかしい点がたくさんあると思っています。ただ、生徒の中には将棋、邦楽、音楽、ダンスなど芸術分野でプロ級の者がいます(過去にも今も)。将棋では奨励会員からその後プロになった人がいます。部活動もそんなに活発とはいえませんが、府の定通大会ではいつも上位にいます(これは生徒数の多さによることもありますが)。高齢の浮世絵師の方が卒業して大学へも進まれたことは、報道もされて有名になりました。このように多彩な生徒の様子が桃谷高校をいいものにしてくれていると思います。
 
<姜(桃谷高校夜間定時制)>
 定時制の夜間には、夜間中学の卒業生が入って来ます。10月には説明会を開いて、天王寺夜中、文の里夜中、東生野夜中からの生徒に対応しています。年齢は高い生徒が多いのですが、学習意欲などの点でみるとそうした生徒さんたちが勉強の中心になっています。
 生涯学習コースでは朝鮮語の授業も持っています。みな熱心に参加されています。
 朝鮮人生徒の本名については、校内の人権委員会で話し合って、合格者説明会の時に呼びかけの文書を配布しています。その時の様子を見ていると、やはり民族学級や民族クラブを経験している生徒は抵抗なく話を聞いているので、小中学校でのとりくみがやはり重要だと痛感しました。
 朝鮮人教育は、HRなどでやろうとしても、HR自体がむつかしく、そこで扱うことはできません。朝鮮人生徒どうしのつながりをつくることもそのままでは困難です。総合の時間、カリキュラム内で何かできないかと考えています。
 生野の中学校での取り組みとも結びつくことができればと思います。生野地域にむけての公開講座で朝鮮語授業には朝鮮人が5、6人受講しています。生野区役所でも案内してもらっていますが、ウリマルを学ぶところはほかにもハングル講座や民族団体の語学講座がいろいろあります。
 
<萩原(桃谷高校通信制)>
 入学する生徒のうち七割近くが不登校の生徒で、そのうち、入学後に七割くらいは元気に登校していますが、三割はそのまま不登校が続いています。学校としては、(誤解をおそれずに言えば)何もしない、ただ、待つ、のです。電話にもでれない生徒もいます。電話することがプレッシャーになることもあるのです。生徒は元来好きなところに行けばよいのです。学校は生徒のものですから、教員はそれに対応した役割を果たせればと思います。
 朝鮮高級学校から190人の生徒が通ってきています。レポートの期限が朝高の試験と重なって、よく苦しんでいます。こちらとしては、せいぜい、何か困っていたら助けてやろうというくらいの姿勢でいるほかありません。
 朝鮮高級学校の一条校並の処遇についてもそうですが、また、中国帰国生徒の入試特別枠を桃谷にもつくれと要求しています。
 
<椎口(桃谷高校昼間定時制)>
 「自分らしさ」を中心に置いた教育の中で、被差別の状況に置かれた生徒の問題と「中退」生徒の問題をつなげて考えていきたいと思ってきました。なかなか生きがたい時代の中で、共同性をどんな形で追求していけるのか、どうやって生徒どうし、人間と人間がつながっていけるのかが問題です。
 生徒はもう「こうせないかん」ではくくれません。例えば、朝鮮学校を経験した中には、「朝鮮人だからこうしなければならない」と言われるのがもうかなわない、と言うような生徒もいます。本人は本名から通名に変えたい。親も、一度通名でやってみてもいいのではないかと言う。高校生の集いがあっても、いやがって行こうとしません。彼女と話す中で、「確かに、朝鮮人だからこうせなあかん、では、しんどいだろう。けれども、人間はみなそうやって何か背負って生きているのも事実だ。小説でも読んでみたら」と話しかけています。
 どちらにしても、「こうしなければならない」だけではむつかしい、というのが実状です。
 
<討論から>
・ 桃谷高校のすぐ近くの中学校です。学校案内のために桃谷高校の先生がうちの中学校に来てくださったことがあって、高校の先生が中学校に来てくださることなどいままでなかったので感激しました。いつも生徒が元気に通っている様子を見ています。
 先日新聞に、生野区の中学校での地域を教材とした総合学習の紹介が載っていました。生徒がグループを組んで、校区のヘップ(履き物)産業のようすをフィールドワークし、地域の人たちに話を聞いたりするのをよろこんでやっています。そこで思ったことは、生野の場合、学習が深いものになって朝鮮人としての問題に踏み込むことができるのかどうかが、鍵になるのではないかということです。生徒に対して、確かに、「こうせなあかん」では通用しないし、かえって反発を招きます。素敵なものを見せて、たくさんのことを経験させて、それじゃあ「こうしてみようかな」と乗せていくことが大事だと思います。総合学習も、そうした楽しい経験からさらに進んで、深い思いに届くものとしてできればなあと思います。
・ 高校でも、朝鮮奨学会の紹介がきちんとなされていないところもある。朝鮮人生徒にとっての、当然知るべき権利、最低限学校でこれだけは朝鮮人生徒に教えるべきだというものがあるはずです。それをひとつのテキストにできたらよいと思います。そうすれば、韓国修学旅行の時にも、朝鮮籍の生徒がどうなるかもわかるし、「朝鮮と韓国の混血」などという途方もない間違った認識も生まれないと思います。
・ 生野地域の中学校では、桃谷高校の新しいスタイルに対して生徒たちの進学希望は多いと思います。その意味で、地域からの期待も大きいのではないでしょうか。
・ 桃谷高校の教育は、教育そのものを根本から考えるヒントになるものだと思いますが、いわば敗者復活の学校で、進路の問題がどうなっているか聞きたい。
・ 通信制では、時間をかけて、自分のしたいことを見つけていくことをサポートするのが進路指導の根本です。アルバイトで夜勤している生徒もたくさんいます。現状では、職安でも、就職しようとしても高卒でないと仕事をみつけることができません。高校卒の資格が就職の前提になります。看護学校や四年制大学への進学も、朝高の生徒たちなどたくさん希望しています。そのほかでは、障害者の場合は「手帳」があり、企業も指導を受けて一定の受け入れ態勢があるのに比べて、病気や心身症の生徒が就職について難しい点があります。
・ 定時制では、欠席日数が多い生徒の場合、就職は厳しい状況です。昼間定時制は、制度自体がまだまだ認知されていないので、企業に対して説明に苦労します。
 
<資料>
 桃谷高校 2000年度10月入学生への配布文書(定時制夜間部でも同様の文書を配布している。入学は四月と十月の二回)


 
                   2000年9月30日       
                    大阪府立桃谷高等学校      
                      定時制昼間部        
合格おめでとうございます。
◇外国籍生徒・保護者の皆さんへ


大阪府教育委員会指針は次のような方針を決めています。

 「在日韓国・朝鮮人児童生徒が本名を使用することは、本人のアイデンティティの確立に関わることがらである。学校においては、すべての人間がお互いの違いを認めあい、ともに生きる社会を築くことを目標として、在日韓国・朝鮮人児童・生徒の実態把握に努め、これらの児童・生徒が自らの誇りと自覚を高め、本名を使用できるよう指導に努めること」。
 本校は外国人が多数在住する生野区に位置することから、外国人に対する偏見をなくすために、教職員の研修を積み重ね、生徒に対しても様々な取り組みをしてまいりました。人権教育の一環として、コリアタウン・朝鮮市場のフィールドワーク、人権博物館、ピース大阪の見学などを行っており、また、教科においても、韓国・朝鮮語、中国語、英会話、異文化理解、国際理解、アジア研究、福祉などの科目を開講し、すべての生徒がしっかりとした人権意識をもてるよう指導しております。
 本校では外国人生徒について次のような基本方針でのぞんでおります。
  (1)本名を使用できることが当たり前であるような学校づくりに努めます。
  (2)公文書は原則的に本名を書いています。
  (3)本名で生活してほしいと願っています。
◇入学にあたって相談事のある人は、保護者面談を行いますので遠慮なく担任に申し出て下さい(不登校などで学校生活に不安のある方も、保護者面談を行います)。



 藁  ま  く  人
                                                        谷  博    

 今春、MBSテレビが集中的に滋賀県にある単位制・通信制私立高校の越境入学問題を取り上げた。「この学校は滋賀県と京都府在住者対象の狭域通信制高校なのに、大阪府から住民票を移して入学させている。それを仕掛けている私塾(サポート校)が大阪にある。教育の質も悪い。けしからんことだ」。概ねこんな趣旨であった。そしておきまりの「藁をも掴む思いの子どもや親の願いを逆手にとって・・・」といって断罪した。最近のニュースでは、かの高校は滋賀県に私学助成金を返金し、大阪の私塾とも縁を切るという。藁をも掴む思いの子どもや親がいる。そして藁をまく人がいる。しかし掴むものは所詮藁である。藁はいかにしてうまれたのだろうか。
 中曽根首相が臨教審を組織して出した第一号の答申が、専修学校卒業生の大学入学資格付与と単位制高校の設立であった。戦後日本の教育制度は、幼、小、中、高・高専、大と養護諸学校という一条校(学校教育法第一条に書いてある学校のこと。専修学校は同法第八二条の二に規定されている)による単線型であり、親も子どももその線の上を歩いていくのが目標とされた。臨教審の答申はこれに若干の軌道修正を加えるものであり、これは教育における規制緩和の端緒であった。

 この波を真っ先に受けたのが通信制高校であった。86年に東京で行われた全国高校通信制教育研究会で単位制の検討をしようとの声があがり、早くも八八年には「単位制とは定時制・通信制の中の特別なもの」という位置づけで全国で3校(岩手、長野、石川)が開校した。相前後して、専修学校卒業生の大学入学資格が認められた。あわてたのは、専修学校と技能連携をしている私立通信制高校であった(これらのほとんどが狭域ならぬ広域通信制高校)。それまでは専修学校では高卒資格がとれないから、やむなく通信制高校と連携していたのが、専修学校卒業でも大学入学資格がとれるのであるから、もはや通信制高校との連携の必要はない、しかも、専修学校は3年で卒業できるのに通信制高校は4年。これはならじと私立通信制高校は文部省に掛け合い、通信制も3年で卒業できる道をこじ開けたのである。(なお、棚ぼた式に定時制も3年で卒業できるようになった)。それでも専修学校卒業は高校資格とはならない。そこで、専修学校は自前で生徒に高卒資格を与えたい気持ちがむらむらと沸きあがった。彼らのうちいくつかは単位制を標榜した通信制高校を開校した。一部に全日制でたち行かなくなった高校が改組した例もあるようだ。
 技能連携というのは、専修学校での技能の学習が連携先の高等学校の単位として認定できる制度をいう(技能連携校には専修学校のほか、企業内訓練校もあったが、中卒労働者の減少とともに消滅していった)。専修学校の授業料は公立全日制高校よりは遙かに高いが、昼間に行けて、高卒資格(ただし技能連携校に限る)もとれるいうのが売りの一つであった。私は大阪教組の中核となった15単組の教研で地元集中受験運動の蔭でこれらの学校に行く生徒の問題提起をしたことがある。これをきっかけに高槻・茨木・吹田・枚方等の進路担当者とパイプががつながった。

  80年代の中ごろ「技能取得は不要、通信制高校のレポート指導だけをしたほうが手っ取り早い」という今に続くサポート校の奔り(走り)が生まれた。このアイデアを持ち込まれたとき、私はその純化ぶりというか特化ぶりに驚かされたものだ。

 私立の単位制・通信制高校が本校以外にも教室を開く、さらにこれらの通信制高校のレポートを教えるサポート校が誕生する、このような状況と相前後して大阪府ではある政党が熱心に中退者対策を府教委に迫っていた。府教委の意向を受けて大阪府立桃谷高校は92年に通信制を主とした単位制高校に改編し、同時に専修学校生徒をもっぱら対象としていた集団部を廃止した。午後にスクーリングを行う通信制課程昼間│部、そして定時制課程(昼・夜)を増設し、現在に至っている。これにより中退生徒を受け容れることができたが、完全に希望を満たすことができず、まだまだ多くの生徒が「藁をも掴む思い」で私立通信制やサポート校へ向かっているのが実状だ。不登校生徒を対象にした教育相談施設のうち、サポート校になっているものもある。
 
 高校は生徒や親の「高校ぐらい出ておかないと」という不安を集めてようやく命脈を保っている。滋賀県の私立単位制・通信制高校はこのような状況の中で生まれてきたのである。 
(2000年5月)

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