第3回シンポジウム報告
2001.2.2
      「本名を呼ぶ」教育とは
 
 「本名を呼び名のる」教育運動は、朝鮮人の子どもたちが日本式通称名でなく朝鮮名を名のる、というだけのものではありません。ただの名称変更を目的とするのではなく、日本人の子どもたちにはその朝鮮名を呼ぶことができるようにすることにより、「本名を呼び名のる」ことができるような教育環境をつくり出す、その取り組み全体を指し示すものです。従ってそれは在日朝鮮人教育実践を包括する取り組みであり、在日朝鮮人教育の中心軸に据えられるべき本質的課題です。

 考える会運動の30年の中で、この運動をめぐっては「本名実践」についてのさまざまな議論がありました。今、民族や文化が多様化していく日本社会のなかで、「本名」を使用する意義は何か、実践する際の課題は、具体的方策は、などについて、今までの運動の成果を踏まえながら整理しなければなりません。このことは、私たちがこだわり続ける在日朝鮮人教育、「本名を呼び名のる」運動のあり方を追求し続けていくためにも不可欠なことと考えます。テーマを「本名を呼ぶ教育とは」と設定したのはそのためです。

 この日のシンポジウムは70人余りの参加者が朴一さんのお話の迫力に圧倒される一方、民族講師などからの朝鮮人自身の内側をえぐる議論や、各中学校の実践の中からの議論や新聞記者からの提起が多彩に入り交じって、中味の「ものすごい」ものとなりました。「日本名撲滅1000日運動」の真意が明かされ、また特に一例を挙げれば、「日立就職差別」裁判の評価をめぐる提起(「あの裁判は負けてほしかった」!)は、従来の単純な常識を転倒させるもので、一つの裁判の持つ多様な文脈だけでなく、それに関わるさまざまな解釈をもう一度思い出させることになりました。詳細な記録は現在校正中で、次号をご期待下さい。今号では、当日配布のレジュメを掲載します。    (シンポジウム委員会)
 
 
 
 「在日コリアンが本名を名乗り、
日本人が在日コリアンを本名で呼ぶ」教育とは
 
       〜在日コリアンが民族名で生きる意味〜
 
 
                      大阪市立大学   ぱく いる
 
プロローグ
 
 日本が植民地支配下の朝鮮人に創氏改名を強いてからすでに60年。依然として在日コリアンの多くは、この創氏改名政策の呪縛から解放されずにいる。多くの在日コリアンが、日本名を名乗り続けているのは何故か。何故、在日コリアンは民族名を名乗ることができないのか。また何故、多くの日本人は在日コリアンを本名で呼ぶことにためらいを覚えるのか。今回の報告では、今一度、この「語り尽くされたテーマ」について検討し、「在日コリアンが本名を名乗り、日本人が在日コリアンを本名で呼ぶ」意味について考えてみたい。
T   在日コリアンが日本名を名乗る歴史的背景
 
 ・1940年政令19号「氏に関する規定は、朝鮮の慣習によらないで、内地民法の規定による」
 :創氏改名は、あくまで朝鮮人による任意の届け出であり、自由意志による申請とされた。しかし総督府は、日本名を名乗らない朝鮮人に対し、配給対象からの除外、取締  りの強化、入学拒否、いじめなど、制裁を加え、役所、警察、学校など生活のさまざまな場で創氏改名を促した。
 
U   植民地期と解放後における創氏改名政策の変化と連続性
 
 ●戦後の在日コリアンに対する対応
 ・朝鮮人軍属に対する処遇
 ・登録上における通名の取扱いについて
 ・飛鋪宏平「登録上における通称名について」『外人登録』第19号、1958年
 ・田村満『外国人登録法逐条解説』1988年
 →日本政府は、在日コリアンに限り、通名を公的な証明書(印鑑登録、外国人登録証、商業登記、不動産登記証、自動車運転免許、就学通知など)でも使用する道を開くこ  とで、生活のさまざまな場での通名の使用を誘導してきた。=日本政府は、戦後一貫してより巧妙なやり方で創氏改名制度を支えてきた。
 
 ●日立就職裁判判決の功罪
 
 ●在日コリアンが民族名(本名)を名乗れない訳
 ・本名で近所付き合いができない
 ・本名で学校に行けない
 ・本名で家が借りられない
 ・本名で仕事ができない
 →在日コリアンは本名で生活できない
 
V   在日コリアンが民族名を名乗る意味
 ・在日コリアンが民族名を名乗れない限り、日本植民地支配からの真の解放はない。
 ・在外コリアンは民族名を名乗ることで、自らにエスニックな立場を無言伝達できる。
 
W   在日コリアンが民族名を名乗れる社会を作るために
 ●通名は在日の文化遺産といえるだろうか
 ●「通名(日本名)撲滅1000日運動」を展開しよう
 ●在日コリアンが本名を名乗っても不利益のかからない日本社会を創造しよう

 
プロフィール:朴 一(ぱく いる)
 1956年生まれ。在日韓国人3世。商学博士(専攻は朝鮮半島の政治と経済)、現在、大阪市立大学経済学部教授、韓国高麗大学客員教授歴任。
 1992年、NHKテレビで韓国大統領選挙を実況中継。その後「アジア・マンスリー」、「クローズアップ関西」などの番組で韓国報道に携わる。現在、NHKテレビ「関西ラジオワイド」、毎日放送「諸口あきらイブニング・レーダー」、朝日放送「おはよう道上洋三」などの番組でレギュラー・コメンテイターを勤め、日韓、日朝関係や在日外国人問題を独自の視点から分析・提言する行動派のエコノミスト。
 99年、講談社から『在日という生き方』を出版。2000年9月には、この本をベースにNHK教育テレビで「変わる在日コリアン」(ETV2000)を演出、出演した。また、朝日新聞の論争誌『論座』に「アジア観察2000」を連載中。大阪市の外国籍住民有識者会議の委員も勤め、市の外国籍住民施策に多文化共生の立場から提言を続けている。
 

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