2001年度第1回シンポジウム報告
 
 在日朝鮮人の立場から
 皇甫康子(ファンボ・カンヂャ)

 6月29日(金)大阪市立中央青年センターで、全朝教大阪(考える会)第1回シンポジウムが開かれました。
 新しい大阪市の教育方針のもと、私たちは「民族学級」を全国津々浦々の学校に広げるための思想的、理論的基礎を整理し確立しつつあります。今回のシンポジウムもそうした作業の一環として企画されたものです。

 講師の皇甫康子さんは、昨年までの兵庫県川西市桜ヶ丘小学校から、今年は川西中学校に変わって、同和教育指導員として勤められています。また、大阪府池田市市外教でも、長く子どもたちのチャンゴクラブの指導にあたってこられました。自らの子育ての経験と海外を含めた広い視野からのお話は大変おもしろいもので、日頃おつきあいの深い池田の仲間や、米国ノースカロライナ州立大学Tai Eikaさん(外国語・文学部助教授。台湾出身で日本語も。明石書店『多文化主義とディアスポラ』の著者。私たちの話は、アメリカから見れば、馬鹿みたいでしょうね、とちょっと謙遜してお聞きすると、いえいえ、アメリカでもどこでも、目の前の状況は同じですよ、今日の議論は大変おもしろかった、と答えて下さいました)らとともに、二次会の夜遅くまで話は尽きませんでした。

 お話と議論の全貌、多数地域と少数地域での微妙な朝鮮人の意識のずれ、互いを見る感覚のそご、祖国への意識の違いなど、朝鮮人だいすき日本人にはこたえられないおもしろい内容は、準備が追いつかずお届けできませんので、今回は当日のレジュメだけを掲載します。なお、前回2月のシンポでの朴一さんのお話の記録についても、遅れて申しわけありませんが、楽しみにお待ち下さい。

 また今回、シンポジウムの最後に、教科書問題につてのアピールを採択しました。あわせて掲載します。(シンポジウム委員会)
 
                    
私が「在日朝鮮人」と名乗る理由
 ・南も北も祖国だと思っている。
 ・日本国籍取得者を含めて在日同胞は仲間だと思っている。
 ・植民地支配下の「朝鮮人」からまだ解放されていないと思っている。
 ・蔑称である「チョーセンジン」を敢えて名乗ろうと思っている。
 
過去現在、「在日」の子どもたちの学校生活は?
 ・公教育は恩恵。日本人のための教育、「我が国」「国語」「日本国憲法」
 ・日本人と同じに扱われる。つまり何の配慮もない。
 ・ウリマル(母語教育)が受けられない。自分の国の文化や歴史を学べない →「在日」だけが本国の親戚と意志疎通ができない。
 ・本名をきちんと呼んでくれない。
 ・「朝鮮人のくせに」「韓国に帰れ」といまだに言われる。→なぜ、朝鮮人が多く日本に住んでいるのかを知らない日本人の子どもたちとのギャップ
 
少数地域での民族教育
 ・池田での保護者会の立ち上げ→「月一回、同胞に会える日」
 ・本名を呼び、名乗る取り組み→堂々と名乗ることで差別を許さない
 ・地域での啓発→市民カーニバルへの参加 
 ・差別事象への対処→当事者だけでなく、仲間がサポート
 ・現場の先生たちや教職員組合との連携と連帯→池田市内の民族交流会の実現、月一回の民族学級の実現
 ・クラスから学年、全校へと取り組みの拡大を要望→「本名宣言」の例 
 ・地域の小中高の連携(豊能地区へのひろがり)→府立高校での出来事
 
民族教育とは?
 ・母国の文化や歴史を知るのは当然必要だが、それ止まりで良いのか?
 ・民族教育は人権教育である。嫌でも「民族」を意識させられる日本社会において、人間として正当に扱われるための権利意識や自尊感情を育てる場。
 ・差別にあう時はたった一人。「回避する」「闘う」「話し合う」等、いろな闘い方を考えていく場。
 ・他の民族やあらゆる差別に対して鈍感であってはならないはず…。
 ・メンタルケアーの必要性。→「強くなれない」「頑張れない」自分も認める
 ・「在日」で培われてきた能力を再評価、「在日」という立場の特性を知る。
 ・「なりたいものになれる」という希望を持たせたい。
 ・日本での朝鮮人、本国での「在日」、世界での在日朝鮮人という視点
 
川西での同和教育推進の立場から
 ・学校に「在日」の教師がいるだけで、子どもたちと無理なく出会える。
 ・低学年ではまず、朝鮮文化と最初の出会いをしてもらうが、その場合でも、外国の文化への視座、民族差別(本名)についても取り組んだ。
 ・中学年では校区にある「総合センター」がなぜ創られたのかを学び、遊びを取り入れながら、地域の渡来文化などについて学ぶ。
 ・高学年では「識字」から夜間中学で学ぶ在日一世の人たちの姿。歴史を学び、在韓被爆者問題や戦後補償の問題、外国人登録証、就職差別や入居差別についても学ぶ。
 ・担任や同和担当教員達と協力しあって出来上がる人権学習、人権総合学習。
 ・最初は「偏向教育」と言われたが今では…?
 
これからの展望と課題
 ・少数在籍地域で、子どもたちが民族名を名乗って、学校生活を送るためには、現場の教師たちや地域の日本人たちとの連携が必要不可欠。
 ・「在日」の子どもたちや保護者を支える取り組みははじまったばかり。
 ・「在日」の子どもたちのアイデンティティーを保証する教育と日本の子どもたちへの国際理解教育(民族差別を許さない人権教育)の制度化(戦後補償)。
 ・本名を名乗るための(当然の権利)「在日」へのさらなる支援の必要性。
 ・「在日」の就職状況や世界で活躍する「在日」など、新しい情報へのアクセス。「在日」のための相談窓口など。
 ・日本全国どこの学校でも民族講師を配置する。  
 ・民族学級や民族子ども会の取り組みを学校全体に広げていく。

     

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