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勝山中学からのたより(第3回)
「卒業式を終えて」
 
 秋の文化発表会は、14人がプンムルを演じ、大好評のうちに終わった。友だちに誘われて9月から練習に参加したクミジャのアピールは会場の感動を呼び、見ている朝鮮人生徒の中には涙を流す者もいた。発表の後新しく参加し始めた一年生も何人かいた。

 発表会を終えると、三年生は進路へと怒濤のように追われて行く。校内発表の成功に酔いながら、さらにクラスや学年への広まりを図りたいところだが、そういうわけにはいかない。校内実力テストは毎月続いており、生徒たちはまさに受験勉強のまっただ中だ。舞台発表の生徒たちも、早くそのペースに戻してやらないと、進路をつかめなくなる。入試制度が変わり、入試日程がどんどん早くなってきたこの何年か、毎年感じるジレンマだ。その中で、朝鮮人の生徒たちは、卒業式の名前についても迷うことになる。

 発表会に出演した生徒たちは全員本名で卒業することに決めたが、参加してこなかった生徒たちがどれくらい本名で卒業するかが問題だ。卒業証書の名前は本名が原則だが、何人か通名記載を希望する生徒がいた。また、式場で呼ばれる名前については、本名を希望した生徒は発表会出演者以外では一人だけだった。普段の感想文発表などでは本名を入れてもよいという生徒はずいぶんいたのに、いざとなるとほとんどの生徒が通名で呼ばれることを希望してきた。学年全体への広まりが今一歩熱くなりきれなかったと思う。「本名を避けたい」という親の意識が強いのも前任校(生野南)と違うところがあるし、私自身の姿勢にも迷いやとまどいがあって、そういう状況を変えるほどの取り組みになっていなかったことは認めざるを得ない。

 今年印象に残った生徒の一人がウィジャンだった。二年の後半から、「韓国人はいやだ」と繰り返し、いわゆる「つぶし」の発言を繰り返してきていた。しかし、発表会を見て教室に帰ってきた時、「感動したわ」というのが彼の言葉だった。それ以後、学年で本名問題を中心にビデオを見たり、ゲストティーチャーを招いたりして学習したが、彼は黙って聞いていた。「いけたかな」と内心喜んだが、それは甘かった。証書の名前を通名でと、彼は言い張った。「日本人がいい。日本の名前がいいねん。」しかし、最後には、こうも付け加えた。「先生、あれ続けたらいい。あれ続けたら勝中は変わるわ。」「あれって、民族クラブの文化発表のこと?」「うん、そうや。」

 彼は、通名の卒業証書を受け取って卒業していった。これから先、彼は自分を変えるチャンスに出会えるだろうか。(出会ってほしい。) (大阪市立勝山中学校 乾啓子)
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