高校朝鮮語授業の教科書づくりすすむ
「韓国・朝鮮語教材資料集(文字と発音・会話篇)」完成
 
 2003年度からの高校での新教育課程実施を前に、新たに朝鮮語授業の導入を計画している学校も多いことと思います。
 『朝鮮をどう教えるか』(解放出版社)のハングルの項も、導入には最適ですが、高校では府立外教設立当初からの課題の一つであった朝鮮語教科書作成が、いよいよ現実のものになろうとしています。

 この6月、府立学校に「韓国・朝鮮語教材資料集(文字と発音・会話篇)」(2001年度JETプログラム中間研修会、大阪府教育委員会、A4本文40P)が配布されました(JETとは、「語学指導等を行う外国青年招致事業」です)。その教育委員会による「まえがき」は、次のように述べています。

 「本年度は、大阪府内の公立高等学校21校(府立19校、市立2校)で、延べ798名の高校生が韓国・朝鮮語を学んでいます。このような状況のもとで、大阪府教育委員会は、JETプログラムにより、平成12年度(2000年度)から継続して韓国・朝鮮語指導助手(AKT)1名を本府に招聘し、韓国・朝鮮語を開講している学校への配置・招聘を行い、ティーム・ティーチングによる韓国・朝鮮語の授業の充実を図っています。」

 4月に住吉高校から堺工業高校に転勤された池田悦子先生から、朝鮮語授業に関係してTJF(財団法人国際文化フォーラム)の「高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク」のことも教えていただきました。上記の資料集も、そこと連携して作成されています。(TJFは講談社など6企業が1987年に外務省の許可を得て設立した財団。)
 TJF『国際文化フォーラム通信no.54、2002年4月発行』から一部を紹介します。詳しくはホームページhttp://www.tjf.or.jp/ でご覧下さい。(K)
 

国際文化フォーラム通信no. 54 2002 年4 月
高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク
 
 設立されたのは1999 年、第2回高等学校韓国語教師研修会の会期中のことであった。ネットワークは、全国の高等学校の約3%で実施されている韓国朝鮮語教育(学習者数は高校生の約0.1%)を拡充すべきだと考える高等学校と大学教育の関係者が立ち上げた組織である。韓国朝鮮語の授業内容は地域と学校によってかなり異なっている。

 ネットワークに参集した人々に共通する思いは何か。日本の学校教育において、他の外国語にくらべて韓国朝鮮語は正当に扱われていないという憤懣であり、韓国朝鮮語がもっと広く学校教育のなかで教えられるべきだという主張である。言語的、歴史的に日本語と最も近い関係にある韓国朝鮮語を学ぶことによって、隣国ならびに日本語と日本に対する理解を深めるべきだという訴えである。この主張は、ネットワークの活動を当初から一つの運動にしないではおかなかった。

 高等学校の韓国朝鮮語教育を支えている者の多くは非常勤講師や韓国朝鮮語以外の科目を教える教員であり、韓国朝鮮語の教員免許を持つ者は少ない。そんな現状を少しでも変えたい、変えなければならない──ネットワークの働きかけがきっかけとなって、昨年から天理大学と神田外語大学で韓国朝鮮語の教員免許を取得するための集中講座が開講されている。

 ネットワークの運動は、東日本ブロックによる『高校生のための交流語彙集』試験本の発行、西日本ブロックによる高校生向けの初めての教科書『好きやねんハングル』試用版の発行などの成果に見ることができる。


  『好きやねんハングル』
 ─「教科書づくり」のはるかな道のり
         
大阪府立阪南高等学校 任喜久子(イムヒグジャ)
 
 

 高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク西日本ブロックの活動の一つが「学習のめやす」づくりとそれに依拠した教科書の作成である。「学習のめやす」活動は思考を集中させ、多くの時間を要する地道で見えにくい活動である。
 
「学習のめやす」の作成:1999 -2000 年
 
 ブロックごとに活動を開始した直後、西日本では「学習のめやす」チームが発足した。メンバーは高校教員の方政雄(パンジョンウン)、左美和子(チャーミファジャ)、康龍子(カンヨンジャ)、梁千賀子(ヤンチョナジャ)、長谷川由起子(九州産業大学の専任講師)と任(イム)の6 名。大阪のALT(語学指導助手)、金智賢(キムチヒョン)にも協力を得ている。

 まったく何もないところからの「学習のめやす」作成は、予想以上の試行錯誤を強いられた。アンケートを取って生徒の学習状況や学習項目の定着状況等を調べ、自分たちの長年の経験を出し合って基本路線を構築していったが、それだけでもかなりの労力と時間を要した。どの程度のものをどの段階で入れるべきかという議論を長い間続け、高校の韓国朝鮮語授業の多くを占める2 ・4 ・6 単位の学習時間にあわせて、語彙と文法項目を選定していった。

 2000 年に「学習のめやす」の語彙と文法項目について報告したとき、それを実際にどのように教えるのか具体的な内容が伝わりにくいという指摘を受けた。その後、文法項目・語彙ともに再検討を加え、高校生向けの具体的な教材、教科書の作成作業に取りかかった。
 
教科書づくりに着手:2000 -2001 年
 
 まず、入門段階のものとして2単位(1年間で50時間、4単位の学校なら半年間の授業)に相当する内容を設定し、前半「文字と発音」、後半「会話」の2部構成にした。韓国朝鮮語の学習で最初の難関となるハングル(文字)の学習をどの時期に入れるか。近年オーラルコミュニケーションがもてはやされているだけに、かなりの議論となったが、初期段階での文字導入は避けられないと判断した。

 「会話」の部は韓国朝鮮語がより身近なものになるよう、登場人物を日・韓・在日の高校生4人とした。大まかなキャラクターを決め、後々さまざまな会話の場面で登場人物に親しみを持てるように工夫した。

 「基本会話」は、高校生なら誰でも口ずさめる簡潔なフレーズに絞り、ペアワークが可能なスタイルを取った。余裕のある生徒向けに「応用会話」も掲載した。
 
ネットワークの後押し
 
 2001年の全国研修会以降、教科書づくりに絞ったメーリングリストを立ち上げ、メンバー間のやり取りに生かすとともに、教科書づくりの進捗状況を公開して各ブロックのメンバーから貴重な意見を寄せてもらっている。今風のイラストは現役の大学生である山下蓉子さん(南日本ブロックの山下敏裕さんの「愛娘」)の協力を得た。

 白帝社の協力を得てこの4 月に試用版を発行する。1年間の試用を経て利用者から意見を寄せてもらい、改訂を加えて2003 年春の出版を計画している。全国のネットワークのメンバーによる適切なアドバイスに常々感謝しているが、試用版に対してネットワーク内外からの辛口の批評を期待している。
 
「教科書づくり」のはるかな道のり:2002 年-
 
 チームの会合は現在、大阪府立阪南高校で行っている。初期は鶴橋駅から徒歩5 分、猪飼野のど真ん中にある「ジョアハングル研究所」で行っていた。いつも誰かがキンパやチジミ、ケーキ等を持参してくる。メンバーのほとんどが在日韓国朝鮮人の2世・3世であり、時には延々と在日の話で熱くて濃い議論になった。

 テキストの内容を日本と韓国だけに限定せず、在日の存在を反映したいという「熱望」もそんな議論からだ。入門段階では構成上難しかったが、登場人物に在日を含め、コラムの中に反映させた。

 チームの会合は常に発見と収穫の場であり、密度の濃い時間だった。会合の頻度が月1 回から2回に増えたときは、みんな目いっぱいだったと思う。でも、ワークシートやゲーム、単語カードの作成、指導マニュアル・吹き込みテープの作成、テキストⅠの改定とⅡ・Ⅲへの着手等々、残された仕事は多い。試用版の発刊を目の前にして、「教科書づくり」のはるかな道のりに思いを馳せている。

 169号表紙へ



inserted by FC2 system