シンポジウム報告 2003. 3. 6
中国からの子どもの退去強制問題と
学校現場の課題
「収容ストップ、難民ウエルカム、友だち返せ、日本を変えよう!」
本誌前号(172号)の葉映蘭さん(盾津中)、林二郎さん(東大阪市教組)、草加道常さん(RINK事務局)のお話の記録に続いて、今号では空野佳弘さん(弁護士)のお話と啓発小(鄭さん・尚さん2家族の「在留特別許可」を求める)、加美北小(李悠紀さん家族の問題)からの特別アピールを掲載します。当日は、各地の学校から、自分の学校の生徒の問題を気にかける教職員が駆けつけました。(空野さん記録小見出しは編集委員会の責任でつけました。)
また、啓発地域(東淀川区)でのその後の運動と、その成果について、石崎厚史さんの文章を掲載します。「学校は子どもの教育権を守る」「地域は家族の生活権を護りあい助け合う」という当たり前の原則が広がって、少しでも他の同じ状況の助けになるように、努力したいと思います。空野弁護士も、ボランティアであちこちの現場をかけずりまわっておられます。
7月8日には「勝利の報告集会&お祝いの会」が大阪市立飛鳥人権文化センター(東淀川区)で多くの方々の参加で行われ、今後も会を継続して、各地の同様の家族や子どもたちを支援していくことが決まりました。お祝いの会の運営や片づけをしていた地域やPTA、それに地元柴島高校など高校生の皆さん、お世話になりました。 (編集委員会)
「どうか助けて下さい!
退去強制裁判闘争の争点」
空野佳弘(弁護士)
最初にお願いしたいこと
資料は、阪大留学生センターの山田泉教授、言語学の先生が書かれた、裁判での意見書です。子どものことを考えるに当たって非常に参考になるものです。
申し訳ありませんが、レジュメを準備する時間がなかったほど疲れています。どうか助けて下さい、皆さんに助けていただかなくてはと思っています。
なぜこういう状態になるのかというと、やはり、国を相手にしているということです。しかも、裁判所が行政当局のする処分、判断に、適正な救済を与えてくれたらよいのですが、それも非常に困難だということで、その中で国と立ち向かうというのは非常に大変なことで、私たちではとうてい力が足りません。ですから、最初にお願いしたいことは、皆さんに助けていただいて、国の現在の政策を何とか変えるように各方面からの努力をお願いしたい。これが一番目のお願いです。
中国からの家族の裁判の争点
私が今直面している具体的な事件からお話しするのがいいと思います。中国から来た家族のことが話しに出てきましたが、中国の家族のこともいくつか裁判で扱っています。
周君のことですが、彼の家族は残留邦人の親族を偽って来たわけですけれども、特に残留邦人と特別な関係はない。しかし、子どもが大きくなっていて、中国へ帰れない、ということで裁判になった。それ以外には、血縁はないけれども、実際に家族として中国で暮らしてきたという場合があります。一つの家族は、中国残留婦人が中国人の夫と再婚してその連れ子といっしょに中国で暮らしていて、実子を呼び寄せ、夫の連れ子も呼び寄せようとしたが、正直に言うと入管が書類を受け取ってくれなかったので、その連れ子が別の日本人家族の中にまぎれて入ってきた、とうものです。もう一つは、養子の家族。残留邦人が小さいときから養子として育ててきた子どもを含む家族。これらは、血縁はないけれども家族としての実態はあるというケースです。
あと二家族がありまして、私の目から見ると、本物の残留邦人の家族で血縁関係もある。ただ、日本で戸籍が見つからない。懸命に探しているんだけれども見つからない。それは、入国する時には別の家族の中に入っていたのだけれども、日本に来て調べたいというのが動機だった。それで、まだ見つかっていない。しかし、中国には、日本で生まれたお母さんが元気にしている、あるいは、中国で亡くなったお父さんの、日本で撮った写真だけが一枚残っている、そういう家族です。そういう家族についても、証明はあなたがやりなさい、国は独自の調査はしません、という冷たい態度です。今懸命に調査活動をやっている、そういう段階です。
それぞれの場合について、裁判では争点が変わってくるところと、共通のところがあります。ご承知のように、日本では、外国人というのは、在留資格がない限り在留することはできない。いったんその資格を失えば、外国へ追放される、そういう状況にあるのです。どういう人を受け入れて、どういう人を追放するかは、現在の国際法では、慣習法上その国が自由に決定できるとなっていまして、直接に在留資格がない人の在留許可を義務づける条約というのは今のところないのです。直接「この人の在留を認めなさい」ということを命じる条約というものはない。特別の場合、例えば、難民条約とかでは、この人は追放してはいけないとかいう場合もありますが、それ以外では、ない。
子どもの権利、家族の保護の視点
ところが、こういう出入国の管理の分野においても、最近の人権条約、子どもの権利条約とか国際人権規約とかでは、子どもの権利や家族の保護を締結国に義務づける条項ができてきています。これは、直接に在留を許可することを命じたものではありません。しかし、そういう権利を守りなさいと、子どもの権利や家族の保護を図りなさいという条約を守ろうとすれば、反面、在留を認めなければ行けないという、そういう関係の条約がいくつか出てきているわけです。
まず、どの家族にも共通するのは、子どもの権利の問題ですね。子どもを連れて今さら帰れないという家族が多い。長期在留、9年から10年経過していて、子どもも学校に行っていて、大きくなり、年齢が一番上の方では大学生になっている。いまさら国へ帰っても子どもたちは教育が受けれない。子どものためにがんばってなんとかしたいというのが、ほとんどのケースです。
資料にある「子どもの権利条約」3条1項を見ていただきたいのですが、「子どもに関するすべての措置をとるに当たっては、公的もしくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局または立法機関のいずれによって行われるものであっても、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする」と、こうなっているのですね。しかも、2条には、「管轄下にあるすべての子どもに適用される」と書いてある。そうすると、国籍は問わない、在留資格があるかどうかも問わない、要は、その締約国の中にいる子どもすべてにこの子どもの権利が適用されるのことになっているです。
そうすると、3条1項も、当然、在留資格を失った子どもにも適用される。これは明らかなことですね。だから、何が子どもの最善の利益になり、何が利益に反するのかを、国はきちんとその家族の実状に応じて検討して、判断を下さなければいけないことになる。ところが、現状は、資料の山田泉教授の意見書の第1ページを見て下さい、そこに国側の主張が書いてあります。「親権者の原告甲が退去強制されるべき者である以上、その看護養育を受けるべき原告悠紀及び悠太についても母親と共に本国へ退去強制されるべきものであることは当然である。」親が強制送還されるべきものであれば、子どもは強制送還されて当然だ、とこう言っている。そこには、子どもを親から切り離して、独立の人格として、その利益を判断するという姿勢が今の国には全くないという状況なんです。
諸外国の動向
この点については、最近の諸外国の裁判所の動向などを見ていますと、裁判所の判決によって入管当局が大きく姿勢を変えている例があります。一つ例を挙げますと、カナダの97年7月9日にカナダ連邦最高裁判所が画期的な判決を出しました。そこでは「カナダが子どもの権利条約を批准したこと、およびカナダが批准した他の国際文書において子どもの権利と最善の利益が重要視されていることは、連邦移民法を適用して決定をおこなう際に子どもの利益を考慮することの重要性を示す。すなわち、子どもの権利条約に見られる価値、原則は、子どもの将来に関連しそれに影響を及ぼす決定をおこなう際に、子どもの権利とその最善の利益に注意深くあることの重要性を認める。従って、条約その他の国際条約の諸原則は、本件決定の合理性の主な判断に当たって、中心となる諸価値を示す一助となる。」こういう風に言って、この事件では、麻薬の犯罪を犯したお母さんを、子どもと切り離して強制送還しようとしたのです。しかし、それは子どもの最善の利益に反するとうことで、その決定を取り消した。これ以来、カナダでは状況が大きく変わっていまして、子どもの利益が問われた場合には、仮に送還を決定するにしても、どこをどう判断したかその判断の決定過程をきちんと文書にして理由を明らかにしなければ行けない。そういう風にカナダの入管当局のやり方がかわっています。
「血縁主義」日本の人権無視の状況
日本の場合には、理由も何も明らかにしない、どこをどう判断したのか何も明らかにしないで、ただ不許可の通知があるだけです。やはり、今の入管の条約の適用のやり方というのは非常に条約の趣旨に反するものだと思っています。しかし、入管だけならまだしも、裁判所がそれに対してきちんとした救済をしないというのでは、この条約の拘束力、この条約がいったいどのような効力を持っているのか疑問です。出入国管理行政を拘束する効力を持っているのかどうかということについて、今のところは、法的に拘束する効力はない、というのが裁判所の理解なんです。最高裁がそうです。人権条約の拘束力を非常に狭く解釈して、ほとんど無視しているに等しい状況がずっとある。
そういう中で闘わなくてはいけないということですから、本当に苦しい。
この秋に、近畿弁護士連合会では、外国人の人権ということを人権シンポジウムのテーマに掲げて、長期在留外国人の問題、難民の問題、収容の問題、差別防止、これらについて準備を進めています。各界の協力がなければ難しいと思います。
もう一つは、入管が在留を許可するかどうかの大きな要素として、血統主義という問題があります。入管の政策は、非常に深く、血統主義の原則に貫かれています。基本的には、現在外国人労働力は受け入れていないでしょう、しかし実際には、単純労働力は受け入れている場面がある。それが、日系人の受け入れということです。ペルー、ブラジル、あるいは中国などからですね。日系人に限って定住ビザを発行して就労を認めるということになっている。それに、96年に出た730通達というのがあって、日本人の実子を養育する外国人の親は永住を許可するというふうになっている。このように、日本人という血縁に基づいた入管政策という傾向が非常に強いのです。
例えば、先ほどの意見書は、加美北小学校四年生の女の子の家族なのですけれども、お父さんから認知を受けています。お父さんは、認知をした当時は、永住資格を持った在日韓国人。その後「帰化」して現在は日本国籍です。現在親子関係は非常に良くて、同居はしていませんが、いっしょに食事に行ったり遊びに行ったりしている。しかし、この場合には、先ほどの730通達の適用はない。通達では、子どもが出生の時に親が日本人であることが条件なのです。後で「帰化」した場合には適用されない。出生の時点で日本人の実子であって、永住権者の実子には適用されない。こういうことになる。
このように、血統主義に貫かれた入管政策の狭さというのは、非常に大きな問題だと思っています。これは、平等原則に反するのではないかと思います。
もう一人、韓国人のお母さんが送還されようとしているのですけれども、子どもは日本国籍を持っています。これは、日本人の父親によって胎児認知されたからなんです。胎児認知の場合は日本国籍を取得します。生まれてから認知したのでは、日本国籍を取得できません。子どもは日本国籍を持っているので、子どもを強制送還することはできません。母親だけを強制送還する。しかし、お父さんには別の家族もあります。まだ離婚していませんから。韓国籍のお母さんが子どもを養育していて、お父さんが時々面倒を見にやってくる。お母さんだけ追放して、どうするんですかね。そうなれば、子どもを連れて帰るのか、というそういう状況になります。
強制収容の問題点
もう一つ、最後に、この裁判を続けるに当たって難しいのは、収容の問題です。
最近は、父親だけを収容するというのがずっと続いています。周君のお父さんは二年三カ月すっと収容されました。最近は、父親だけではなくて、学生になったら収容する、という方針を入管が打ち出しています。この間、2月13日午前午後、相次いで大学生が収容されました。入管の執行の責任者と会いましたら、「学生は大人扱いをします、高校生までは義務教育に準じたものとして見なしますけれども」と言っています。
実は来週も出頭しなくてはいけない、先ほど林先生の話にありました大学の女子学生です。優秀なフランス語専門のよく努力する学生なんですけれども、おそらく収容にかかるのではないかと思っています。また、喧嘩をしなくてはいけない、そういう状況です。
この収容の問題は、入管法に一応規定はあるのですが、入管としては全件収容主義で在留活動を禁止するのが目的だと言っています。しかし、どこを見ても、全部収容しなくてはいけないなどとは書いてありません。「収容することができる」と書いてあるだけです。在留活動の禁止、などということも、入管法のどこにも書いてありません。すべて入管の解釈からでてきた原則ということで、だいたい、短期の、送還のために一時収容する、というのは、まあやむを得ないものがあると思います。もちろん、収容するまでもなく送還できるのであれば収容する必要はないのですが。しかし、裁判をする場合には、どんなに短くても一年半から二年かかりますよね、控訴審、最高裁まで行けばもっとかかります。その間、送還もしないのに、ずっと入管に閉じこめておくというやり方は、やはり憲法に反するという風に、また、国際法にも完全に反すると思っています。
学生の強制収容は「国益に反する」
人身の自由というのは、基本的な人間の権利ですね。それを制約するというのは、やはり、特別の事情がなくてはいけない。入管で収容できるという目的は、「送還の確保」ということですね。送還の確保のために収容するということなのです。しかし、逃亡の恐れもなく、送還にも支障がない場合には、収容は認められないと思います。毎日大学へ行って勉強している学生を、捕まえてきて収容所に入れるなどということは、絶対に認められない。入管では、「この政策が世論の支持を受けられる」というふうに、この間言っていましたけれど、そんなことは絶対にあり得ない、社会常識に反すると思います。国益にも反する。
入管の職員も話の中で言っていました。「こんな学生だけでも、留学ビザ与えて勉強させたらよいのに、家族を皆帰らせて、学生まで収容して、こんなにして人材を失うことは国益に反する」と。私もそうだそうだと言ってきたのですが、本当にそう思うのですね。彼らは貴重な人材になります。在留資格を与え、勉強の機会を与えればね。こういう非合理的な政策については、やはり闘っていかなければいけないと思います。学生の収容も、永いものは、もう半年になろうとしています。できるだけ早く決着をつけなければいけないと思っています。
ほんとうに助けて下さい。よろしくお願いします。
特別アピール1
石崎厚史(大阪市立啓発小学校)
昨年の11月から強制退去の問題が起きました。支援活動で、署名などのご協力をお願いしたいということです。
中国残留孤児の方の再婚した妻の連れ子姉弟が日本にいまして、それを今になって二家族五人の子どもを強制退去させようとしている。一番上が啓発小学校二年生で、下の四人の子どもは皆日本生まれです。今さらこの子どもをどないせえ言うねん、ということです。今回、支援する会というのを作りました。市民運動にしょうという仕掛けを作りました。PTAに働きかけて協力をしていただくことになりました。同和教育推進校ということもあって解放同盟のバックアップも受けながら、小学校PTA、保育所保護者会、地域住宅の振興協会、地区育成会、これは地域教育協議会に当たるものです、それに東淀川解放共闘会議が幹事になって、とにかく広く支援してほしいので、私が直接、協力してほしいという話をしに行きました。地域協議会は、どこでもまもなくできると思いますが、校内同和教育担当の私が、もう二十年もやっている本校の地区育成会の中で人間関係ができているので、直接頼みに行っても、よっしゃよっしゃということで協力してもらえます。
このことをきっかけにして、地域で学習会などを開いて、何が問題なのか、隣に住んでいる外国人のことをどう考えていけばいいのかについて、市民運動につなげて行ければと思います。
部落解放同盟も三支部あって、協力を受けています。現在の、法務省に人権擁護委員会を置くという人権擁護法案について、ノーと言い、一番人権を侵害しているのが法務省ではないかと考えています。その際、入管の実態を暴く中で、運動のありかたを考えたい。3月18日に府民共闘で「人権擁護法案は続発する人権侵害に対応できるのか」という集会を開きます。ここで、当事者である家族から訴えを聞き、大阪で発覚した人権侵害の訴えという報告もして、活動を広げたいと思います。
11日には毎日放送でこの間の私たちの活動が放送されます。署名運動についてもご協力をお願いします。
特別アピール2
小田島弥(大阪市立加美北小学校)
山田泉教授の意見書にありました、李悠紀さんを支える会で活動しています。11日に母親の高さんの証人尋問が大阪地裁で開かれます。それを受けて14日に平野人権文化センターで、山田泉先生を招いて学習会を計画しています。これは、平野と加美地域の民族親の会が中心となって開きます。よろしくご参加下さい。
「極めて異例」な在留特別許可を勝ち取った
地域の人々の豊かなつながりあい
大阪市立啓発小学校 石崎厚史
6月20日、大阪入管は、昨年11月末に在留許可を取り消し強制退去手続きに入っていた尚秀娟さん尚立斌さん姉弟とその家族計9人に対して、在留特別許可を与えました。翌日の新聞には、各紙とも「極めて異例」と報道されていましたが,「異例」を勝ち取ったのは,私たち学校関係者だけではなく、地域の人々が豊かにつながりあい、ともに行動してきた結果であると考えています。
尚秀娟さん尚立斌さん姉弟は、中国残留日本人である父、吉岡勇さんを頼って、1997年に来日しましたが、姉弟は吉岡さんの妻の連れ子であり、日本人との血縁関係がないことが発覚したというのが、大阪入管が突然、在留許可を取り消し、強制退去手続きに踏み切った理由です。
私たち啓発小学校の職員がその事実を知ったのは、12月9日の朝でした。11日に緊急の職場集会を開き、職場をあげて全面的に支援する決議をあげました。啓発小学校に通う,鄭十方さん(尚秀娟さんの子。現在の3年生)は、脳性麻痺のため肢体が不自由であり、入学当初は車椅子で登校していました。その送り迎えをしていたのは、他でもない吉岡さんでしたので、私も含め、啓発小学校の全職員が、十方さんの両親の顔は知らなくても、祖父である吉岡さんの顔は知っていたといっても過言ではありません。ですから、本当に職員一同、
「幸せに暮らしていた家族を血のつながりの有無だけで、その絆が引き裂かれ てもいいのか!」
このような怒りの思いでいっぱいでした。
こうした思いを、PTA、連合町会をはじめとした地域諸団体に訴えた結果、多くの賛同者を得て、2月17日、260名もの人々が集い、「鄭さん尚さん家族を支援する会」を発足させることができました。10万を目標に掲げた署名活動、生活を支えるための餃子づくりや販売、当事者を囲んでの学習会など、また、それぞれが、それぞれの場で、この問題の不当性を幅広く訴え、支援を呼びかけてきました。その一つが、全朝教大阪のシンポジウム「中国からの子どもの退去強制問題と学校現場の課題」でした。
活動の集約点として、5月22日には、東京に出向き、参議院会館内で院内集会を開き、その後、法務省の増田入国管理局長へ直接、8万人分もの署名を手交しました。また、6月4日には、支援する会の濱田啓発連合町会長と原田事務局長が森山法務大臣と応接し、直接嘆願することができました。
ところで、準備期間も含めた半年あまりの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。粛々と進む強制退去手続き、そして3月31日の福岡地裁での強制退去容認判決。5月初旬の代表者会議では、「情勢は非常に厳しく、在留特別許可が出なかった場合、裁判で望みをつなぐ」とした方針では十分でないことを確認し、長期にわたる闘いは当事者をはじめ支援者の疲労が重なり、支援する会への求心力が弱まり、勝利への道のりが遠ざかるばかりではないのかという危機感が漂っていたのは事実です。
しかしながら、私たちは、こうした様々な困難に屈することなく、「幸せに暮らしていた家族が引き裂かれる」ことを「私たちの地域で起こった問題」として多くの人々が豊かにつながりあい、当事者の家族をはじめ支援者一人ひとりがあきらめずに活動をすすめてきました。その結果としての6月20日でした。弟の立斌さんは,「6年前,在留許可が下りたときよりも嬉しい。皆さんとのつながりができた」と話されていましたが,それは,地域の皆さんが共通してもてた今回の大きな財産です。
6月20日以降、担任でない私が見ても、子どもの姿が格段に明るくなっていることを肌で感じます。思えば、担任に「先生、中国行くかもしれない」と担任に訴えたことから、「強制退去」の危機にあることが発覚しました。普段から笑顔が絶えない子ですが、9歳の子どもに「強制退去」の危機がいかに重たく肩にのしかかっていたかを思い知る毎日です。そう思うと、子どもの明るい笑顔見れば見るほど、あの子がついこの間まで抱えていた重荷を背負った子どもが、何人も何十人もいるんだという事実を思い、複雑な気持ちになります。
今回だされた在留特別許可は、「定住者」としての扱いにとどまり、家族として在留を法的に認めたものではありません。したがって、同様の問題を抱える家族に、必ずしも「在留特別許可」がだされるものではないことをふまえる必要があります。鄭さん尚さん家族と同様に,血縁関係を理由に家族の絆を引き裂かれ,現在,退去強制の手続き中あるいは法務大臣裁決取消訴訟提訴中の家族は,私たちが把握しているだけで,全国に6件あります。私たちの勝利を基礎に,法務大臣の裁量にゆだねられる在留特別許可ではなく,定住資格の基準そのものの見直しがなされるよう,今後も訴え続けていかなければいけないと考えています。
私たちのこの成果が、将来において多くの家族を救うための「希望」になることを願っています。どんな時代にあったとしても、どんな違いがあったとしても、家族を引き裂くような法やルールを決して許すことはできません。この思いがもっと多くの人の心に届けられるよう,今後も活動を続けていきたいと考えています。
ご支援して頂いた皆さま,本当にありがとうございました。