母国語教室のあゆみ

池田市立呉服(くれは)小学校

   大上 一枝

日本教職員組合第53次教育研究集会は2004年1月24〜26日埼玉県で開催されました。第2日の第15分科会「国際連帯の教育」では、大上一枝(池田市立呉服小学校)さんの「多文化自立と共生の学校づくりをめざして一呉小に民族のこどもたちが集う場をつくろう一」の発表が行われました。その内容は次のようなものです。

1 はじめに

2 母国語教室での活動

3 2002年度 立ち上げの年を振り返って

4 母国語教室のとりくみと結び合う各学年の多文化共生教育

  第6学年総合的な学習指導案                                                                 

本号では、当日、報告集とは別に配布された「資料母国語教室のあゆみ」を掲載します

(編集委員会)

 

 2001年度に本校で起きた民族差別事象を機に、呉服小学校は「母国語教室」として、朝鮮半島にルーツを持つ子どもたちが集う場をつくった。16人の在日外国人の在籍する本校では、手探りの中、在日外国人の保護者の大きな願いと期待、教職員の熱い思いがエネルギーとなって、当時の民促協の金ソンセンニム、姜ソンセンニムに開講式の持ち方から、年間のプロプラム作り、民族講師としての指導など大きな協力を得ながら、2002年度の母国語教室の活動を続けてきた。

・運営は、在日外国人教育部会が担当。

・実施時間帯は、全校が5限で終了する木曜日に隔週で第6限に行う。

・講師は、ケグリの会の講師であり、本校でも人権参観や多文化共生教育でお世話になっていた姜孝裕さん(守口二中)。

・講師料などの費用は、学校教育振興特別助成金に国際理解教育をテーマに申請し、それと人権教育研究委託料の一部を合わせて活用。

 母国語教室を開く隔週の木曜自の第5限には各学年でテーマにそった国際理解教育を講師とともに行うことにし、計画を立てた。

 

2002年度 活動内容

月日 参加数 内容
6月26日 開講式
7月17日 名前の読み方・歌、数字・時計の読み方
9月5日 名札づくり、歌、サムルノリの練習
9月19日 歌、サムルノリの練習
10月10日 ハングル、サムルノリの練習
10月31日 サムルノリの練習
11月6日 サムルノリの練習
11月9日 音楽学習発表会
11月21日 歌、ユンノリで遊ぶ
10 12月12日 年賀状づくり
11 12月19日 サムルノリの練習
12 1月11日 池田オリニモイム
13 1月16日 カレンダーづくり
14 1月23日 凧(ヨン)づくり
15 2月6日 サムルノリの練習、凧上げ
16 2月27日 サムルノリの練習
17 3月6日 サムルノリの練習
18 3月7日 国際理解学習全校集会
19 3月14日 終了式

 

 昨年度は6年生に本名使用の子がいた。同学年に同じルーツを持つ子どもがあと2人いたが、5年生までは、その2人は自分のルーツのことを教室で自ら話すこともないし、民族名を使うこともなかった。しかし、学校の中に自分の民族と出会う場ができたことと、6学年での母国語教室の学習とリ.ンクした総合学習の中での多文化共生のプログラムの取り組みによって、3人の子どもたちは、自分のルーツに誇りをもつことができるようになるとともに強い連帯感のようなものを持つようになり、母国語教室だけでなく学級の中でも休み時間など、お互いに民族名で呼び合っている場面が見られるようになった。そして、6年生最後の、国際理解学習全校集会では、力強くサムルノリを演奏し、全校の前で本名、民族名で堂々と自己紹介をした。本当に、暗中模索ながら保護者の方、ソンセンニムの大きな後押しで一年間がんばってきてよかったと、鳥肌がたつほどの大きな感動を覚える場面であった。

 

 2年目を迎える母国語教室は、ルーツを外国に持つ子どもたちだけでなく、周りの日本人の子どもたちにも定着してきている。4年生のAさんは、3年生のときから担任やおうちの人に後押しされながら参加を続けた。

 

2002年度学年のテーマと活動概要

1年生

「ちがうっておもしろい」
   1
学期 民話の読み聞かせ
   2
学期 チャンゴの演奏
   3
学期 民話の読み聞かせ・遊び

2年生

となりの国おいしい!楽しい!おもしろい!
   1学期 韓国,朝鮮の歌
   2学期 韓国・朝鮮の遊び
   3
学期 タルのペンダント作り・カルタ遊び・チヂミパーティ 

3年生

「友だちの国のこと、みんなで知ろう!
   1
学期 サラム、サントッキ・ハングルを知ろう
   2
学期 あいさつや歌、楽器演奏
   3
学期 フィゾピンについて・アジアについて

4年生

「ハングルに親しもう」
   1学期 ワールドカップについて
   2
学期 ハングル文字、くらしやあいさつことば
   3
学期 ハングルで書いてみよう

5年生

「いろいろな国・いろいろな人」
   1学期 英語によるコミュニケーション
   2
学期 タガログ語やフィリピンについて
   3
学期 日本と韓国・朝鮮の歴史的な関係

6年生

「いろいろな言葉、音楽、遊びの文化にふれ、親しみの気持ちを
持たせるとともに、民族固有の文化を尊重する」

   1学期
   2
学期 韓国・朝鮮と日本との歴史
      ソンセンニムの生い立ち、生野区について

      コリアタウンのフィールドワーク
   3学期 さまざまな国


 今年は、教室の授業でも民族講師の先生の授業や、韓国のことを学ぶ学習プリントには、ハングルで民族名を書くようになった。周りの子どもたちが「Aちゃん、母国語がんばっといで」と言って送り出したり、見学にきて応援したり、学習発表会のサムルノリの演奏のあとでは、たくさんの友だちが「チャンゴ、すごかった」と声を掛けたりしていた。Aの保護者は、「兄二人、いとこもたくさんいるけれど、ハングルが書けたり、韓国の文化を身につけているのは、Aだけで、おじいちゃんは(在日2)、そのことをとてもうれしく思っている」と話された。これも、母国語教室での活動と、学級・学年に母国語教室と同じソンセンニムが入って、多文化理解の教育が展開されているからと言える。

また、2年生のBさんは、今年度の2学期まで参加できなかった。お父さんが日本人で、お母さんが韓国人、お父さんは、「Bの母語は日本語。」と。しかし、2学期のサムルノリの練習から体験的に母国語教室に参加し、本人が「プ」をもっとたたいてみたいと、強い気持ちを持ち、学習発表会では堂々と演奏し、韓国語のせりふをもっとも大きな声でいきいきとした表情で発表できた。その様子を見られたお母さんは感激の涙を流され、お父さんは我が子の自信たっぷりな様子に韓国の文化を学ぶことの大きな意味に気付かれた。

 

 アンニョンハシムニカ

 この度はテープをダビングしていただき、その上頂戴いたしまして本当にありがとうございました。

 正直、発表会の当日まで、特別な感情はなかったのですが、あのすばらしい演奏を聴いて、私も主人も涙してしまいました。感動いたしました。

 私自身、韓国ということで自分から積極的に文化なり何でも取り入れるようなことがなかったのですが、わが子はとても韓国という国に興味があり、誇りを持っているようで、私と違う意見で戸惑っていましたが、今は子どもの気持ちを尊重したいなあと思っております。自分の出生に誇りに持ち、他の民族などに関係なく相手を敬い、尊ぶ気持ちを育んでくれたらと思います。

 どうぞこれからもよろしくお願いいたします。;

2年保護者

 

4年生の最後の発表会で下を向いてチャンゴをたたき、観ているわたしたちも胸がいたくなるようなことがあったCさんは、5年生になると同学年2人の友だちの参加があり、活動をともにすることで気持ちも解放され、今年度の学習発表会では堂々とチャンゴをたたき、みんなの演奏をリードしてくれた。

韓国のこと自分のこと

 韓国、そう聞くと、みなさんは何を思い浮かべますか。キムチ、ハングル、チマチョゴリ、そんなことを思い浮かべる人が多いと思います。また、海の向こうの国だから知らないという人もいるかもしれません。私は、そんな人たちに、視野を広げてほしいと思っています。なぜなら、みなさんのすぐ身近にも、韓国の人、韓国にルーツを持つ人がたくさんいるからです。

私たち母国語教室に通っている人たちは、韓国にルーツを持っている人たちです。しかし、日本語をしゃべり、ひらがなを書き、日本の学校に通い、日本に住んでいます

 私が韓国にルーツをもつということを聞いたのは、ずいぶん小さいころで、お父さん方のおじいちゃんが昔、日本に来て、その後、日本にずっと住んでいるという話でした。初めて聞いたころは、歴史のことなど、まったくわからなかったのですが、わかったふりをしていました。しかし、心の中では、「何で、韓国にルーツを持っているの?みんなと何も変わらないし、ここは日本なのに。」と思い、あまり理解できていませんでした。そして、疑問を抱えたまま、時間が流れていきました。4年生のとき、母国語教室が開講することになりました。母国語教室とは、木曜日の5時間目が終わってから1階の教室で行われる韓国にルーツを持つ子どもだけの授業です。そこではサムルノリを演奏したり、文化を習ったりします。その授業の中に歴史もあり、昔、日本が戦争をして、その時に朝鮮の人たちが無理やり連れてこられて、名前も日本の名前に変えさせられたということを教わりました。そんな話を聞いているうちに、なぜ私が韓国にルーツを持っているのか、なぜ日本に私がいるのか、という疑問が消えていきました。

 もし、母国語教室が開講していなかったら、私は今でも歴史を知らなかったし、同じ韓国にルーツを持つ子たちのことも知らなかったし、楽器をたたくこともなくすごしていたと思います。初めのころは、楽器が下手で、下手で、付けやいば状態でしたが、今ではサムルノリの演奏ができます。また、母国語教室で学ぶ他の子どもも友だちで仲間です。私は、母国語教室ができてよかったと思います。

 今、母国語教室は韓国にルーツを持つ人だけの授業で、それ以外の人は見学することしかできません。でもこれからは、見学する人を増やしたり、最終的には、韓国にルーツを持たなくても興味を持つ人がいっしょに授業が受けられるようになったりしたらいいなあと思っています。

5年児童


 学校の中に同じルーツを持つ子どもたちが集う場があり、そこと結び合った学年、学校の多文化理解教育が展開されることで、それまで、日本名で生活し、まったく自分のルーツと向き合うことのなかった子どもたちがルーツと向き合うようになったり、教師にも見えていなかった子どもたちのルーツが明らかになってきたりしている。

 

 ぼくは、3年生の時母国語教室に行って、姜先生から教えてもらって韓国人だとわかった。姜先生は、「きみのおじいちゃんは、民族の人のための仕事をしていた人や」と言っていた。3年生の時は母国語教室で朝鮮語読みで名前だけ呼ばれているだけだった。朝鮮語読みでの苗字と名前は4年生になってからわかった。4年生になってからはハングルでも書けるようになった。

 母国語教室では楽器もたたけるようになった。去年はプゥをしていたけど、4年生ではチャンゴを練習した。そして11月の音楽会ではプログラムの一番にサムルノリを演そうした。チャンゴは柳先生のケンガリに合わせてたたいた。チャンゴだけでたたくとこれは、ドンドンドンと思いっ切り強くたたいた。何度かまちがえたところもあったけどいっしょうけんめいやった。席にもどるとみんなが「すごい。」と言ってくれた。

 母国語教室では韓国の料理を作ったり、もっと韓国のことをいっぱい知ったりしたい。ぼくは、母国語教室を6年まで続けようと思う。

4年児童


 昨年度は隔週であったが、今年度はより充実した取り組みを願って、毎週木曜日に教室を開いている。5時限目は、各学年の国際理解教育の取り組みに民族講師の先生にかかわってもらい、6限目には朝鮮半島にルーツを持つ子どもたちが集まり、自国の言語、文化の学習をしている。

今年度は、2月はアジアンマンスリーとして、5人が在籍するフィリピンの子どもたち、保護者が集う場も持つ予定で、母国語教室の活動によって、多文化共生教育は深まりと広がりが期待できる。

 

2年間の様子

  2002年度 2003年度
本校児童数 497 484
ルーツを外国に持つ児童 16 17
開講数 19 33
開講日 隔週木曜日6 毎週木曜旦6
指導者 姜孝裕さん(柳敬修さん) 柳敬修さん(姜孝裕さん)
平均参加者数  8 9


2003年度年間計画

内容
22 開講式
29 ルーツを同じくする友だちと集おう
  ・ あいさつ
  ・ 遊び
  ・ 歌など
12
19
26
料理調べ
10
17 お楽しみ会
10 「秋夕」
11 11 サムルノリの練習
12 18
13 25
14 10
15 16
16 23
17 29
18 30
19 11
20 音楽学習発表会
21 20 音楽学習発表会を終えて
22 12 年賀状づくり
23 11
24 18 お楽しみ会
25 15 韓国のお正月
 ・遊び
 ・あいさつ
26 22
27 28
28 アジアマンスリー
 ・フィリピンや中国の友だちと集おう
 ・料理づくりや遊びをしよう
29 12
30 19
31 26
32 全校集会に向けての練習
33 11 全校集会・終了式

inserted by FC2 system