実践報告
池田北高校における「国際理解」の授業
池田北高校 本木知子
(1)「国際理解」の授業内容

2004年度国際理解クラス、ベルギーのJakvo SCHRAM(ヤクボ シュラム)氏を迎えてのエスペラント授業。
 池田北高校の「国際理解」の授業では、朝鮮語・中国語・エスペラントの三つの言語を学んでいます。2004年度に先行実施をした後、2005年度は週3時間で、3年生の選択科目として、特別非常勤講師の先生に来ていただいています。選択者(16名)を希望により二つに分け、一つは年度の前半に中国語、後半にエスペラント、もう一つは前半にエスペラント、後半に朝鮮語を学んでいます。

 一学期は中国語の声調・ピンイン(アルファベット表記)・会話の練習やエスペラントのインターネット講習・メール交換などをしました。また、例えば日本と中国での行事や風習(風呂の使い方・餃子の食べ方)の違いなどを講師の体験を交えて聞きました。生徒の感想には「日常会話をもっと発音練習したい」「自分で読めた時や書けた時はとてもうれしい」「中国の漢字も少し習ったので書けるようになりたい」などがあります。

 中国語のテキストは、朝日出版社の『入門・北京カタログ』(相原茂・戸沼市子編著)を使い、別冊宝島1127号『相原式:中国語読み書き入門ドリル』を補助プリントにしています。2時間連続の時を利用して、映画鑑賞や料理実習をします。先日、映画「山の郵便配達」を観ました。生徒の感想には「多少聞き取れるところもあって、字幕を見ながら聞くとわかりやすかった」「中国はすごく広いから配達するのも大変そうだった」「山の人とはどんな生活をしているのか気になった」とありました。少数民族のことに気づいてくれたのもよかったです。次は餃子を作る予定です。

 後半の朝鮮語については、講師の先生にテキストを選んでいただいている途中ですが、楽器演奏などもできると思います。中間・期末考査は、リスニングを含めた平易な問題を講師の先生に作っていただきました。評価は平常点3割、考査点7割を基準にしています。授業の様子を文化祭で展示・紹介もする予定です。


(2)2004年度の先行実施

 2004年度には、選択者(21名)が、前半に朝鮮語、後半にエスペラントを学びました。
 4月はじめには「できるかな」と不安に思っていた人も、ソンセン(先生)ニムのていねいな教え方に一歩一歩進んで、6月頃には3年の廊下でも「アンニョン」などの韓国語のあいさつがいつも飛び交うようになりました。その間、韓国のポップスを歌ったり、映画「JSA」を観て南北分断の歴史を学んだり、チャングほかの楽器演奏、さまざまな文化の学習、小・中学校の民族学級の子どもたちの様子や朝鮮人高校生の日頃や本名を名のるときの気持ちを学習し、講師の先生から日朝間の歴史と在日朝鮮人がおかれた状況についての話を聞くなど、身の回り、足元から始まる国際理解を深めました。インターネットを通じて韓国の新聞などから最新情報を得て、文化祭で展示発表しました。

 生徒の感想には、「在日韓国人の現状を伝える先生のような人がとても大切な気がした」「朝鮮語の歌が流れ、私の中で少し世界が広がる時間でした」「身の回りのハングルが読めて意味がわかったときはうれしかった」などがありました。


(3)特別非常勤講師の起用

 池田北高校の新教育課程は現3年がその初年度で、そこで教科「共生」、科目「国際理解」と「地域福祉」が実施されているわけですが、昨年度その教育課程が再度改訂され、今の新1年の教育課程からは、各学年にあった総合の時間各1時間が引き上げられて、全部3年で3時間実施となりました。従って教科「共生」や科目「国際理解」は次々年度には廃止され、総合の時間3時間の選択学習の一つに変わります。

 2002年に国際理解委員会を結成し、新教育課程の新しい3年選択科目(学校設定科目)として「国際理解」を作りました。当初、委員会のメンバーは、社会科1名、数学科1名(エスペランチスト)、英語科2名と教頭でした。現行の特別非常勤講師による朝鮮語・中国語・エスペラントの語学学習以外にも、例えば講演会や見学会を中心にして資料研究やレポート作成をするもの、あるいは英字新聞や英語の副読本を使って平和や人権などを学ぶものなど、各メンバーが想像していた「国際理解」の授業は違ったものでした。今になって考えてみると、特別非常勤講師の先生をお招きするということに、大変重要な意味があったと思います。今年の講師は、朝鮮語は、日本生まれで朝鮮大学校卒業の方を大阪府民族講師会(事務局はコリアNGOセンター)を通じて紹介していただきました。中国語は、留学生として来日され、現在、池田市の中国人保護者の会でも活動されている方を池田市日中友好協会OBを通じて紹介していただきました。エスペラントの講師は本校教諭の紹介で来ていただきました。

 4月の最初の授業で中国語の講師に対して、本名で通う在日韓国籍の生徒が「先生も在日ですか」と質問しました。同じ在日の先生が学校の中にいることへの期待や願いがあったと思います。また、中間考査の感想欄に「実は私の母は韓国の人です。本当は韓国語を選びたかったんですが、人が多かったので中国語にしました。今となっては学校で中国語と英語、家では韓国語を教えてもらっているので、時々わからなくなりますが楽しいです」と書いた生徒もいました。

 講師の先生は語学に堪能なだけでなく、ご自身の体験や考えを生徒に伝えることができます。それによって生徒は多面的なものの見方を学び、さらに関心を深めることができます。本校に在籍する朝鮮にルーツを持つ生徒は少ないですが、だからこそ、後輩たちにも安定した形で国際理解の講座を残したいと思います。また、韓国・朝鮮に関心を持つ生徒の数は確実に増えており、マスコミの報道とは違う韓国・朝鮮を知ってほしいと思います。


4)小・中学校とのつながり

 池田市は人口10万人余りで在日外国人の数は1.3%、そのうち韓国・朝鮮籍は57%です。学校では在日朝鮮人の生徒は少数在籍であり、本名で通う生徒、ルーツを明らかにしている生徒は少ないです。そんな中で、朝鮮の文化に触れ、交流を深める場として、神田小学校の「ケグリの会」、呉服小学校の母国語教室、「池田オリニモイム(子どもの集い)」、「豊中ハギハッキョ・キャンプ」、池田中学校の朝文研や「ハングル教室」などがあり、民族講師から言葉や習慣、踊りや楽器を習っています。豊中第一中学校の総合学習でも韓国・朝鮮を学びチャング、サジャの舞を行っています。池田北高校に在籍している在日の生徒は少数ですが、本名で通う生徒もいます。彼らは小・中学校を通してこれらの活動の中で自分のルーツを知り、友だちを見つけ、本名で通う勇気を持つようになりました。

 池田北高校でも、2001年にハングルに興味を持った生徒たちによって朝文研が生まれ、2002年に本名で通う生徒を迎え、小学校や中学校の全面的な協力に支えられてチャンゴ演奏・料理講習・映画上映をしてきました。以前、本名で通う生徒が朝文研で放課後に活動していた時に「僕の名前はハングルでこう書くんやで」と教えてくれました。入学して3か月くらいの頃で、初めてのことでした。やはり朝文研のような場が必要なのだと改めて感じました。現在も高校生の頃から本名を名のってこられた彼らの先輩が指導に来て下さっています。しかし、一方で、部員の減少や他のクラブに入ったために朝文研に参加しにくいという問題もあります。

 国際理解の授業があることで、在日の生徒や韓国・朝鮮に関心を持つ生徒が、授業という安定した形で、講師の先生を通して韓国・朝鮮の文化に触れ、日本との関わりに理解を深め、次の進路を切り開いてくれればと思います。


(5)今後の課題

 問題点は、特別非常勤講師の講師時間数の上限が今年度は一人30時間(二人分配当)で、実時間数より10回以上少ないことです。不足分は人材バンクの学習支援社会人等指導者活用事業を利用して補っています。来年度も確証がないので、授業計画が立てられません。また、事務手続きも煩雑で、給与・謝礼も十分とは言えません。講師の先生は高校での授業や成績処理の経験がない場合もあるので、教員がサポートする必要があります。三つの言語の中から生徒が制約なしに好きなものを選び一年間勉強できる、そして各コースにサポートの教員が付ける、それだけの講師時間数の保障が強く望まれます。
  182号目次へ  
inserted by FC2 system