実践報告 

  「国際理解」の授業を通して

                         池田北高校 本木知子

 府立池田北高校では、3年生で週3時間「国際理解」の授業を選択できる。朝鮮語、中国語、エスペラントのうち2つを選び半年ずつ言葉や文化を学ぶ。毎年15名程が選択している。特別非常勤講師として朝鮮語は宋実成(ソン・シルソン)先生、中国語は方黛飛(ファン・タイフェイ)先生に来ていただいている。

 昨年度(2006年度)は、講座が出来て3年目で、生徒の中に本名で通う在日韓国人のCさんがいた。彼は野球部に所属し3年生の夏の大会までクラブ活動に没頭した。一方で、朝鮮奨学会の活動にも参加し2年、3年と学年が上がるにつれ、自分の民族的ルーツや将来のことを考えているようだった。朝文研の柳敬修(ユ・ギョンス)先生が来られると長い間話し込んでいた。Cさんは野球部だったので朝文研の活動などは全くできなかったが、彼が高校にいる間に一度は朝鮮に関することを一緒にやりたいと思っていた。

 そこで、夏の大会が終わったら声を掛けてみようと思っていたところ、学校帰りの彼と偶然に会って話しをすることができた。その前の年に芸術発表会で朝文研の生徒とサムルノリを演奏した。その時は、朝文研から2人、国際理解選択者から2人と教師合わせて6人だった。

 Cさんに「今年の文化祭でもやってみないか」と言うと「僕は、もっとたくさんの人数でやりたい」と言うことだった。その年の国際理解選択者は15人だった。「授業でやってくれたら、皆も練習してくれると思う。放課後はクラスのことで忙しいし」とCさんが言う。授業でやったことを文化祭の舞台にまで上げるには様々な懸念(皆の前にでるのは嫌だ、強制は嫌だ等々)が浮かんだが、「しょぼいのは嫌だ。たくさんの人数で、かっこよくやりたい。」と言うCさんの一言で、決まった。「先生、僕がやりたいと言ったのは内緒にしてや」と言うのを複雑な思いで聞きながら計画をたてた。文化祭まであと2週間だった。

 チャンゴなどの楽器は、朝文研で10人分揃えていたが(これを揃えるときも、池田中学校に勤めておられた川口先生にお世話になった。)足らないので再び池田中学校の久保先生にお願いしたところ快く貸して下さった。

 「楽器は音を出さなければ意味がない。チャンゴの音がどんなにすばらしいか、他の人にも聞かせよう」と授業で説明して、文化祭参加を促した。でも生徒は、何のためにやるか本音のところをわかってくれているようだった。

 楽器の指導には、池田市立呉服小学校で常勤講師として母国語教室や国際理解学習を担当されている皇甫康子(ファンボ・カンジャ)先生に来て頂いた。皇甫先生の厳しい(これも、どうせやるならしょぼいのは嫌だ。かっこよくやりたいため。)指導の下、初めは脱落しそうだった生徒たちも、逆にガッツを呼び覚まされて6時間でなんとか形になってきた。皇甫先生はボランテイアで何度も池田北高校まで来て下さった。

 文化祭まであと数日となった頃、やはり舞台に出たくないと言う生徒が出てきた。3人は人前に出たくない、2人は文化祭でダンスもするので無理と言う理由だった。写真係と司会係を頼んだ。放課後に残って練習すると言っても集まらなかった。私が一人で練習していると、見かねてCさんと同じクラスの生徒達がやって来た。最後に頼りになったのはクラスの友達だった。

 チャンゴの演奏自体が面白くなってきたこともあった。ケンガリを見ながらリズムを変えていくサムルノリは、やればやる程はまる。Cさんも「ケンガリはしんどい」と言いながら、直前には「全体が見える。皆の様子が見えるようになってきた。」と言うまでになった。

 発表の日、教師も含めて13人で、全校生徒の前でサムルノリを演奏できた。3年生が舞台の前で応援してくれた。写真や司会の生徒も喜んでいた。リハーサルの時は緊張していた生徒達も終わった時は皆、自然に笑顔になった。チャンゴやプクの音には地底から響き渡ってくるような迫力がある。1年生や2年生に聞いて貰えてよかった。

 今年度(2007年度)もその2年生が3年生になり10名が国際理解を選択している。

 人工呼吸器を着けて車椅子で通うRさんもエスペラントと朝鮮語を学んでいる。2学期には彼と朝鮮の民画をモチーフとした団扇作りをする予定だ。恒例のコリアタウンフィールドワークやチヂミ作りも楽しみだ。先日、韓国の新聞社が彼の取材に来た。やはり障害を持った生徒が通う韓国の高校の教頭先生も一緒に来られた。いつか交流ができたらと思う。「国際理解」の授業があれば中国語や朝鮮語を勉強できる。さらに生活、文化、歴史など様々なことを体験できる。選択する生徒が減少しているのが気になるが、出来る限り長く続いて欲しい。

 
 
     
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