全朝教大阪2006年度第2回シンポジウム      2007.1.20(土)中央青年センター

   子どもの何を伝えるのか!

   個人情報と教育実践

       〜在日朝鮮人の子どものアイデンティティに関わって〜

 

(以下の内容は当日の発言と配付資料をもとに勝手にまとめたもので、文責はすべて編集委員会にあります。また、その後改悪された教育基本法との関係で注意しなければいけない点もあると思います。)

*当日配付資料

学校教育と「個人情報保護法」の関係 (中尾)

子どもたちのくらしをつなぐ―「自分を語ろう」のとりくみ―(全同教53回大会)

おとなが楽しそうに生きていなければ、子どもも楽しいわけがない(全同教58回大会)

                                                                              (古川)

趣旨説明(正本)

 個人情報保護法によって現場の教育実践にどのよう影響があるのか、特に在日朝鮮人教育の本名実践の中で何を新しい世代に伝えていかねばならないのか、を明確にしたい。

 

報告1「中学校教育の現場から」

                                                          (大阪市立中学校)

 生徒は「通名でいきたい」「本名はいや」という声が表面圧倒的だ。その中で、個人情報保護条例があろうがなかろうが、必要な実践はする。大池中学校は、在日韓国・朝鮮人が全校生徒の約半数、ルーツを持った子どもでいうと約8割になる。

 自分は島根県の山村に生まれ、父親の出稼ぎの間四反の田んぼの手伝いをしていた。李承晩ラインで島根県の漁民が拿捕されたことや、海岸からの密入国の通報について有線放送が行われていた。ホームレスの農業労働者が竹細工をしながら回ってきて、「アイゴ」と言って泣いていた。彼らのことを「チョンコ、チョンコ」と言っていた。広島の方角が真っ赤になって、その後真っ黒になった原爆の時の様子は何度も聞いた。父は中国へ出征したが、死ぬまで戦争の時のことは話さなかった。

 中学一年の地理の調べ学習で朝鮮半島を担当したことを憶えているが、植民地支配についてなどは何もなく、先生も触れなかった。新聞配達をしながら大阪の大学に進学し、寮生活の中でさまざまな運動に出会った。

 浅香での子ども会合宿に参加したが、部落の中で在日朝鮮人との間にも葛藤があり、問題はそう簡単ではないことを知った。今の中学校でも、暮らしの中で見ると同様のことがある。反面、あるPTA役員の朝鮮人は解放歌や狭山差別裁判の歌を歌う。吹田市で育ち今は会社の係長になって、高校に行けたのも支部のおかげと部落解放運動に感謝しているという。

 1978年に西成区の鶴見橋中学校に赴任した。一学年10クラス、全校30クラス規模で、生徒は荒れまくっていて、朝問研はあったがとりくみは進まなかった。校区の長橋小学校からは、中学校へ行ったらみな通名に戻ってしまうと苦情を言われた。各クラスに三分の一近く在日朝鮮人の子どもがいた。最初の頃のにんげん実践では「ちょうせん」と口に出して言うことが難しかった。生徒のそうじさぼりがもとで鼻骨折で入院し、廃品回収の家の玄関に土下座して謝ったが「孫にまでけがさせるのか」とつばをはきかけられ「おまえら日本人は」と言われた。三人目の子どもの時、運動会のゼッケンに本名を書いて帰らせたが、アボジと韓国キャバレーへ行くと、アボジは韓国語でしゃべっている。そこで言われた。「わしは実は帰化しようと思っている。銀行から金借りられへん。先生が本名書いてくれた気持ちわかるけど、わしに民族意識がないと思うか。」

 8年間全同教事務局に出た後赴任した我孫子南中学校では、PTAは私たちの教育実践に反対の人も多かった。修学旅行での「自分を語ろう」の取り組みは、生徒がどんどん自分のこと家のことを話すので、自分でも、こんなことしゃべらしてしまっていいのか、まずいのではないかという気持ちもあった。こうしたことは、個人情報で問題になれば今後難しくなるのかもしれない。しかし、卒業後の夜の会では、反対していた親からも「先生がそこまで考えてくれていたとは知らなかった」と言ってもらうことができた。

 今勤務している中学校は「やばい」。在日朝鮮人の生徒も、民族名、通名、日本読み本名、ルーツがあって日本籍の子の名前、と色々だ。中一のワールドレポートの宿題で、いきなり本名を言い出したりする。しかし、家庭と名前のことを話すのは難しい。「よけいなお世話です」と言われる。

 PTA役員の問題では難しい現実があった。しかし「バンドでもしようか」とPTAおやじバンドを結成し、日本人と朝鮮人が協力してPTAを支えている。子どもから「高校に行ったら日本名になりたい」と言われて、区役所で日本名を抹消し、「アホー、もう日本名はないんや」と答えた親たちがこれを支えている。

 学校での問題は、地域社会の問題をどうほどいていくのかという活動が一方でないと、学校の中だけでは難しいところがある。それをていねいに見ていく必要がある。

 

 

報告2「学校教育と個人情報保護法の関係」

                                                        (大阪市立中学校)

 2005年4月から「個人情報保護法」が全面施行となり、学校現場の対応が必要になっているが、まだ遅々として進んでいない現状がある。

 この法律は、元来が教育現場から出たものではなく、経済のグローバル化に伴ってアメリカなど海外の状況が紹介されそれに対応する必要から日本の官公庁に広まったもので、日本でもファミリーマートの顧客情報が外に出て個々人に500円の賠償がなされたケースや宇治市役所の住民台帳情報がアルバイト学生から売却され市の責任が確定したケースがあった。教育現場の問題としては、1994年の高槻市での内申書開示請求に始まって、1995年には大阪市の個人情報保護条例(2005年改訂)ができ、2004年には文部科学省の告示によって法体系が整備された。私立学校では「個人情報取り扱い業者」として、国立の教育機関では「国の行政機関が保有する個人情報の保護」として、一般の公立学校では「地方公共団体の個人情報保護条例」に従ってこの問題が取り扱われることになる。

 「個人情報の使用目的」も重要だ。学校からの保護者への電話連絡にしても、勤務先への電話は、教師は親切のつもりでも保護者にとってはいやなことも多い。保護者との間のはっきりとした約束が大事だ。「個人の五大情報」として、名前、性別、生年月日、住所、氏名がある。今後「本人情報だけの生徒指導カード」も考えられるだろうが、その当否を含めて議論する必要がある。かつての学校での「特別権力関係」は薄れ、在学「契約関係」に立脚しなければならないような変化が生じてきている。「教育サービス」をする学校という見方が一般市民に広がっている。

 学校、教員と親、保護者の間で教育への関わりについては重なる部分も多いし、反面、とかく相互に無責任な領域もある。先ほどの古川さんの「ゼッケンに本名を書いて家に持って帰らせた」事例が重要だ。地域社会と学校の関係でとかく「本名は言えないのでは」「隠さなければ」というイメージが先行してしまうのが問題で、情報は積極的に活用するためにあることを忘れてはいけない。

 合意形成に足りないところがあっても地域や保護者の理解が得られるケースもあるだろうし、また、何人かの異議申し立てで長年の実践が崩れてしまう場合もある。そうしたことを未然に防止するためにも、この問題への配慮が必要になる。

 学校と保護者との間の相互関係の中でコンセンサスに基づいて「個人情報保護方針(privacy policy)」を確立し、学校内の「個人情報行動基準(compliance program)」を明確にすることが必要になっている。これには管理職の役割も大きい。これを通じて学校の社会応答責任(public school social accountability)を果たしたいものだ。

 

討論

・家庭訪問したいと言っても「プライバシーの侵害です」と言って断られたこともあった。卒業証書の問題などで子どもから話してくれたこともある。自分から生徒に向かって「あんたは朝鮮人やろ」といきなり言ったこともあったが、その子は今親の会をやっている。バスケットボール部の選手名簿にも保護者の了解が必要になるなど、難しい点、配慮しなければならないことは多いが、実践の中で、保護者との信頼関係の中でクリアしていけることがたくさんあると思う。

・民族講師として中学校にも小学校にも両方行っている時に、小中の引き継ぎは学校どうしの情報交換として行われているが、子どもからは「なぜ知っているの」と言われることもある。民族講師としては必要なことで、これはどうなのだろう。また、小学校では一年間づつ各学年の成長カードを作っているが、これもどう考えればよいのだろうか。

・小中連携の「進路相談」の場には、保護者の了解を得た上で情報を持っていくことになる。小学校での情報はそのままでは出してはいけないことになっている。それを教員の専門性だけで押し切るのは責任逃れになるだろう。きちんとした合意形成にもとづく学校としてのアウトラインが必要ではないか。中高の間でも同様の合意形成が重要だ。

・子どもの情報を知る、中でも「国籍」を知る問題をどう考えればよいか。

・そうした問題について教育委員会からは何も出されていない。地域をかかえた学校の問題として考える必要がある。教育に必要な情報をきちんと聞き伝え確認することだ。

・個人の努力で突破できない場合もある。学校全体で「本名を呼び名のる」システムを作っていくことが重要だ。

 
 
     
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