「本名を呼び名のる運動」と高校入試

         ―本名と在籍把握の現状 

  海外修学旅行に出た外国籍高校生が再入国する際、昨年11月に施行された新入管法によって指紋や顔写真をとられるようになるという問題は、年末以来NGO団体や日教組などの働きかけで法務大臣の善処がはかられるところまで来た。二月初めの日教組大会もその交渉の渦中にあった。新聞報道された府立学校には「外国人に今どんな差別があるというのか」という抗議電話もかかってきた。しかし、実はそこで問題になったのは、そもそも高校で「外国籍」をどう把握しているかの基本問題だった。

 公立高校入試で在日朝鮮人受検生を日本人と同等に扱うようになった1965年の日韓基本条約発効以後、学区制による住所確認のための住民票・登録済証明書提出で、国籍は最初からわかっていた(私立高校は在籍把握が容易にはできなかった)。2001年に中学校からの書類でそれに代えることになり、府立高校でも住民票提出はなくなった。

 ある高校の入学出願受付要領と入学者選抜学力検査実施要項には次のようにある。

 「入学志願書の点検確認と受検票の交付。入学志願書の氏名欄本名のみの場合は入学後本名使用、括弧書きがある場合は通称名使用の意思を示す。従って括弧書きがある場合は受検票には通称名(日本名)を書く。」

 「点呼は受検票を提示させ、入学志願書綴により行ない、受検番号と氏名を目で確認し、写真と本人を照合する。必要があって呼称する場合で、志願書の通称[(   )内]の記入のある場合は、必ず通称で呼ぶこと」

 「在日朝鮮人は歴史的経過から大部分の人が通名をもっているのだから、志願書を書く時に括弧書きで通名を書くのは普通で、それをなぜ通名で呼んでほしいという意思表示と見なせるのか」と教育委員会に問い合わせても、これは入学者選抜に限ってのことで、入学後の名前については各学校で指導すればよい、という答えが返ってくる。2003年から府教育委員会の「本名のすすめ」も配布されているのだが
                                   (http://kangaerukai.net/honmyou.htm)。

 1990年代末に個人情報保護が社会的要請となって行政の視点も教育上必要なこともごっちゃにされ、学校現場はその混乱をひきずったままだ。中学校から高校への情報提供に関わって入学生から「なぜ朝鮮人であることを知っているのか」と問われて「教育上必要な大事なことだから知って何が悪い」と答えられず、出願の際「突然本名を言われて傷ついた」と言われて「本名で呼ばれて傷つくような教育をやっているのはどこの中学校か」と言い返せない、そういう高校自体のゆがみ、国籍も本名も避けて通るのが無難という現実は変っていない。

 かつて民促協か民闘連か忘れたが、対府交渉の中で結果としてそうしたやりかたが承認されてしまうことになって久しい。学校の制度上は、申し出て配慮を要請しないかぎり「外国籍」かどうかにすら関心が払われることはない(指導要録にも国籍は書かないのだから)。

                                                   *

 今号は、二月初めに東京で開催された日教組教第57次教育研究全国集会の第15分科会「国際連帯の教育」の概要報告(一部昨秋大阪教組教研資料)とともに、前号のシンポジウム報告を引き継いで<歴史特集>としました。(編集委員会)

 
 
     
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