在日コリアンの民族教育と多文化共生教育

                        関本克良 

 

1 在日コリアンと大阪市

 大阪市が公表している「住民基本台帳人口・外国人人口」によると、2017年9月末時点で大阪市内に12万9780人の外国籍住民がいる。その内、韓国及び朝鮮籍が6万8102人(52%)、次いで中国が3万1514人(24%)、ベトナムが9,490人(7%)、台湾が4,623人(4%)、フィリッピンが3,570人(3%)となっている。17年前の2000年12月時点では、韓国・朝鮮籍をもつ外国人登録人口は9万6115人(外国人登録者総数11万8308人の81%)であったので、ここから約3万人減少している。高齢による死亡もあるだろうが、主な原因は、結婚や出産時に日本国籍を取得したことによって登録数が減少しているのではないかだろうか。つまり、潜在的には韓国・朝鮮にルーツをもつ人口は大阪市の外国人登録者総数の7〜8割存在すると推計することも可能であろう。要するに、依然として、大阪の多文化共生、国際理解教育の重点であり、中心に据えるべき視点は在日コリアンの民族教育ではないかと強調したい。

 

2 外国籍の子どもたちの「減少」と帰国・来日児童生徒の「増加」

 大阪市教委によると、大阪市小中学校在籍外国籍児童生徒数の推移は、2006年時点で、が29の国と地域の約4700名であったものが、10年後の2016年には46の国と地域、約2800名となり、人数は大きく減少している。国際化が進む日本において、公立学校に所属する外国人児童生徒総数は2004年7万人から2015年には7万6千人と増加傾向にあるのに対して、大阪市の外国籍児童生徒数がこの間に4割も減少しているのは異常に見える。これには、国籍登録数からは見えてこない在日コリアンの子どもたちの実際の人数や生活実態が隠されており、日本国籍を取得した在日コリアンの子どもたちが実際にはたくさん存在する。

 一方で、日本語指導を必要とする児童生徒数は、大阪市では5年間で274名から522名に約2倍になっているという。この増加率も全国平均よりかなり高い数値である。しかし、全国平均では外国人児童生徒総数の4割が日本語指導が必要なのに対して、大阪の場合は2割程度と日本語指導を必要とする児童生徒の割合が低いことも特徴的だ。市教委としては、外国から来た子どもたち対して、日本語の習得とともに母語や母文化の保持・伸長を図るための取組の必要性を指摘しており、「国際クラブ」等を拡充することで対応するそうだ。

 以上の通り、大阪市の在日コリアンの子どもたちが置かれている状況は非常に複雑である。さらに複雑なことに、2017年度から民族クラブ・国際理解クラブを「国際クラブ」の名称に一括することになった。これによって、民族学級・民族クラブが進めてきた「民族教育」に、新渡日の子どもたちの教育ニーズが加わって、名称が「国際クラブ」となった場合に何が問題になるか筆者の私見を述べてみたい。結論から述べると、「民族教育」と「多文化共生教育」を別の教育課題として区別し、それぞれに必要な教育実践を検証する必要があるということである。

 

3 「国際クラブの民族教育」と「多文化共生教育」

 民族教育は自分の民族への自覚と誇りを取り戻す目的で、特定の民族の言語、歴史、文化を自ら学ぶものであり、朝鮮学校や民族学級などのように「教育課程外」の取り組みであった。一方、多文化共生教育は、新渡日の子どもたちが増えている現状の中で、「自分とは異なる民族を理解し受容するための教育(国際理解・異文化理解教育)」であり「教育課程内」の取り組みである。両者の目的が異なることに注意しなければならないだろう。この問題は、市民の会の団体協議の際にも、国際クラブ(民族クラブ)の実践を教育課程内に連携させる取り組みについて要望してきている。教育委員会の回答でも、教育課程外にある「国際クラブの実践」を生かして、教育課程内の「多文化共生教育」が発展するように指導・助言を行うとしている。問題を複雑にしているのは教育課程外の「国際クラブ」と教育課程内の「多文化共生教育」の区別ではないだろうか。

 歴史的に大阪で生きてきた在日コリアンの子どもたち、それに外国にルーツをもつ子どもたちの教育問題は、「多文化共生教育」「国際理解教育」「民族教育」など様々な概念で語られてきた。この度、「国際クラブ」の名称に統一されて進められようとしている方向性は「民族教育と多文化共生教育の統合・一体化」のようにも見える。つまり、在日コリアンの民族教育として朝鮮語、朝鮮の文化、歴史を学んできた民族学級に、新たに新渡日の中国やベトナム、フィリッピンにルーツをもつ子どもたちを含めて「多文化共生教育」を進めようとしているのではないか。この両者の教育目標や教育課題について確かな検証を行う必要があるように思う。

 一方で、長らく民族学級で勤務されてきたソンセンニムも、現状の多文化共生教育推進の流れの中で、国際理解教育推進事業のコーディネーターとして、新しい役割や新たな発展を前向きに考えている一面もあると思う。「国際クラブ」の今後の方向性、問題点などはまだ検証できていない状況にあり、簡単に結論を述べることができない。その上で、筆者の私見として少し述べさせて頂くうえで、以下の点を挙げてみたい。

 

4 民族教育を柱とした多文化共生教育に向けた提言

    ―民族講師の待遇改善、役割の明確化を目指して―

 大阪で長年民族教育に携わってきた民族講師が、正規の教育課程内で日本人の子どもを含めた多文化共生教育を担当するのは適任であると思われる。一方で「多文化共生教育」は「総合的な学習」「道徳」など正規の教育課程内の教育活動であり、従来課程外に位置づけられてきた民族教育(朝鮮語、朝鮮文化・歴史の教育)とは位置づけが異なる業務であるため、民族講師の負担が増加することになる。よって負担の増加分はしっかりと待遇の改善を要求していかなければならない。

従来の民族クラブで朝鮮人以外の新渡日の子どもたちを交えた民族教育を行うことは難しいのではないか。「多文化共生教育」の名の下に、新渡日の多様な国・地域にルーツをもつ子どもたちの母語、母文化の学び(民族教育)が必要になっている。一方で、大阪市は「帰国した子どもの教育センター校」の小中学校8校を指定し、日本語・適応指導を実施している。新渡日の子どもたちの教育ニーズは母語、母文化の維持と同時に、日本語・適応指導が必要であるが、朝鮮人の民族教育を担ってきた民族講師が「新渡日の子どもたちの民族教育としての母語、母文化教育」を担当することが適切であるのかどうかしっかりと検証する必要があるのではないか。

 
 
     
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