むくげ電子版 第1号(2018年9月12日)

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
〜多民族・多文化共生の日本社会を目指して〜全朝教大阪(考える会)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆『むくげ』電子版 第1号(2018年9月12日) 通算216号
----------------------------------------------------------------------------

C┃O┃N┃T┃E┃N┃T┃S┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【新代表のあいさつ/むくげ電子版の発行について】(関本)
【1】民族学級をめぐって―今問われていること(正本)
【2】関西子どもの権利条約フォーラム2017(冨田)
【3】アジアの平和と歴史教育連帯(岡野)
【4】朝鮮人強制連行調査の記録(大阪編続)発刊記念の集い(印藤)
【5】追悼 杉谷依子先生
【6】会計報告(岡野)
【7】行事予定


【新代表のあいさつ/むくげ電子版の発行について】 
代表 関本克良(天理大学准教授)

 この度、全朝教大阪の代表を務めることになりました関本克良です。普段大阪に居ない上に、在日朝鮮人教育についてはまだまだ勉強中で、代表が務まるのか自信がないのですが、できるだけお役に立てればという思いでおります。
 米朝首脳会談が終わり、終戦宣言まで話が進めば朝鮮半島が平和的に統一される日が大いに近づくだろうと期待しています。一方で、米軍が徐々に撤退する可能性が出ており、日本が政治的には最前線になってアジアで孤立するのではないかと言われています。これから日本人に必要なことは、アジア諸国の人々との心からの和解を実現するための、戦争加害者としての反省と謝罪ではないかと思います。
 さて、全朝教大阪の『むくげ』を新たに電子メールでお届けすることになりました。今回は第1号になります。昨年度から、大阪の「民族学級」が「国際クラブ」の名称に統一されることになり、これまで積み重ねてきた民族教育がどうなっていくのか心配する声があります。
 昨今の国際化に伴い、新渡日の子どもたちが増え、多文化共生教育が重要になっています。多文化共生教育とは、自文化への認識、自分が何者であるかを自覚した子どもたちが、異文化への理解を深めるもので、通常の教育課程内の業務として当然取り組んでいくべきことだと思います。しかし、日本の朝鮮半島植民地統治を原因とする在日コリアンと朝鮮にルーツをもつ多くの子どもたちが、朝鮮民族の文化と言葉への自覚と誇りを取り戻す「民族教育」は、前述の「多文化共生教育」とは、根本的に性質が異なるものであるということが重要だと思います。これは民族的自覚、「自分は何者なのか」という「アイデンティティ」なり、教育の目的である「人格の完成」と直結するような、基本的人権の一部を構成するものであると考えるべきです。在日コリアンが自分の本名を名乗ることができないような社会は、何か根本的なところに問題を抱えているのです。

 電子メールでお送りする『むくげ』が、民族教育を支える方々のお役に少しでも立てるのなら幸いだと思い、このような形で継続することとなりました。どうぞよろしくお願いいたします。

──────────────────────────────────────
【1】民族学級をめぐって―今問われていること
──────────────────────────────────────
                事務局長 正本 順一(大阪市中学校教員)

 大阪市で「国際クラブ」という形が始まって2年目を迎えた。これまでの韓国・朝鮮にルーツを持つ児童・生徒を対象とした民族学級・民族クラブだけではなく、様々な国にルーツを持つ外国人児童生徒や、日本人も自分たちの民族的なアイデンティティを育むために作られたシステムである。
 国際理解教育的な意義として英語教育も含まれ、一部の学校では、英語を学ぶ「国際クラブ」や誰でも入れる「国際クラブ」が作られようとしている。「民族学級に子どもがあまり来ないから、日本人も入れては?」という教員の声や、「日本人も入れるんやったら自分の子どもも民族学級に入れるわ」という外国人保護者の声もある。しかしながら、大阪市における「国際クラブ」の意義は、日本で生活する外国人児童生徒が自己否定することなく自信を持ち安心して生きていく力を育み、在日外国人の存在をしっかりととらえ外国人とともに生きていける日本社会を主体的に目指す日本人児童・生徒を育むことが柱である。子どもの心の奥に秘められた痛みや輝きを大切にしなければできない教育である。また、どのような状況におかれている子どもであっても、学ばない状態があってはならない。多くの人数で楽しく学ぶことは大事ではあるが、本来の目的はそこではない。誰もが入れる「国際クラブ」で心の奥に秘めた思いを出せる子どももいるであろうが、同じ立場の子どもたちと思いを受け止めようとする大人が一緒にいて初めて心がひらくという子どももいるであろう。「国際クラブ」が何のために存在するのか見失ってはならない。
 「何で民族学級いうたらあかんねん!」とあちらこちらの保護者から納得できないという声をきく。私は「国際クラブ」の表記に反対ではあったが、民族学級が生き残るための方策として「国際クラブ」を認めていた自分がいた。しかし、「国際クラブ」という言葉が独り歩きし、大阪市教育委員会の姿勢も影響して、設置当初の本来の意義が見えなくなっている。すべての子どもに民族学級・民族教育を、と表現する方がその意義がはっきりする。保護者の言葉に、民族学級、民族教育を否定する人の目をごまかそうとしていた自分の弱さに気付いた。この教育は子どもたちにとってなくてはならないんだ!という、力強さが自分には弱かった。今の学校において、子どもの状況をしっかり把握して、民族教育に取り組む姿勢がどれだけあるのか。保護者から、今の状況には納得できないという声があがる。学校現場からはどのような声があがるのか。一人一人の教職員の意識と行動、学校全体の体制の在り方が改めて問われている。

──────────────────────────────────────
【2】「関西子どもの権利条約フォーラム2017」が無事終了!
──────────────────────────────────────
                             冨田 稔

 『むくげ』215号でご報告した「子どもの権利条約フォーラム2016in関西」(全国大会)から一年。2018年1月28日(日)、ドーンセンターにおいて、「関西子どもの権利条約フォーラム2017」が開催された。120人を超える参加者で午前中の3つの分科会、午後からの全体会共に、熱気あふれる集会となった。
 全体会は2人の子どもとユース1人が司会進行をおこなった。子ども会議メンバーのあいさつ、共同代表のあいさつに続き、分科会報告、さらに子ども会議メンバーからの発信「伝えていこうや!自分の想い」とプログラムが続いた。子どもたちの“想い”の発信は、アンケートやペープサート、劇、インタビュー動画と盛りだくさんの方法で表現された。会場を巻き込みながら進行も自分たちが担って、会場全体が引き込まれた。
 全体会の最後は「どんなこと感じた?思った?語り合おうよ!!子どもとおとな」。ここでは、子どもたちの発信を見て感じたこと、思ったことを参加者から子どもに伝え、さらに質問し合った。次のテーマは「子どもの権利が守られるには、こんなことができたらいい、こんなものがあったらいい」とそれぞれの思う意見を語り合った。最後にどんな話をしたのか、あるいは自分の考えたことなどを交流した。

 そこで小学生の参加者からの印象的な話を紹介する。
 「ここではこんなふうに話すことができても・・・。子どもの権利を知らずに生きていくことにならないように、学校でこういうことをやっていかないと変わらないんじゃないかなと思います」。
 来年も参加したいと言ってくれる子どもたちに励まされながら、おとなの責任を改めて感じる日となった。「子どもの権利を知らずに生きていくことにならないよう」、取り組んでいかなければ、とすべてのおとなたちが感じたに違いない。
 「子どもが学校で学ぶのが楽しいと思えるためには、教員の側も楽しい!と思うことが必要だが現実は、何をどう教えるかに目がいっている」

 総括会議では、
・「身近な暮らしの中のどこに子どもの声が活かされているだろうか」
・「子どもの声が活かされるしくみが必要」
・「せっかくしくみがあっても、活かそうとする姿勢がなければ、形だけのものになってしまう」
・「運動としてどう人や団体を巻き込むか、それを意識しながら戦略的な取り組みにしていかなければならないのでは」
などの意見が出された。

 全朝教大阪は、フォーラムの構成団体であり、「子どもの権利条約フォーラム2016in関西」では、「朝鮮学校ってみなさん知っていますか?」をテーマにレポートをおこなったが、それ以降、外国人の子どもたちの権利保障について、ていねいな発信ができていない。2019年は、「子どもの権利条約」国連採択から30年、日本批准から25年の節目の年である。全朝教大阪としての方針を明確に声明できるよう、2018年度は在日朝鮮人の子どもたちの基本的人権(学習権・平等権)の保障に向けた闘いの戦略を議論していかなければならない。

──────────────────────────────────────
【3】アジアの平和と歴史教育連帯
──────────────────────────────────────
【アジアの平和と歴史教育連帯】ニュースレター69号 2018年6月1日
                          (日本語訳:岡野克子)
○事業だより

1)歴史連帯平和の旅
2017年11月から2018年5月まで第1次歴史連帯平和の旅は、妓生観光、米軍基地、3・1運動、華僑、親日派など多様なテーマで実施しました。第2次歴史連帯平和の旅は、同じテーマで、内容とコースの調整をして7月から実施する予定です。ニュースレターやホームページ、フエイスブックを通して案内をいたします。関心をお寄せくださり、多くの方の参加をお待ちいたします。

2)大阪地域での共同授業
日時;2018年5月18日(金)、22日(火)
場所;大阪大学、追手門学院大学
講師;イ・シンチョル 歴史連帯運営委員長
対象;大阪大学、追手門学院大学 学生200余名
主題;韓日歴史紛争と東アジアの平和
内容;大阪地域は歪曲された歴史が盛られた育鵬社の危険ともいえる教科書が採択された地域です。この日本の大阪で学ぶ大学生を対象にして、韓日の歴史認識の違いと東アジアの平和のために歴史認識の違いをどのように縮めていけるのかに対する講義を行いました。

3)写真と絵で見る北朝鮮の現代史(2018年上半期教職員対象職務研修案内)
日時;2018年7月25日(水)〜27日(金) 10時〜16時
場所;歴史問題研究所 グアン・ジヒョン
主題;写真と絵で見る北朝鮮の現代史
講師;イ・シンチョル 成均館大学 東アジア歴史研究所 研究教授
   キム・ソンホ 延世大学 教授
   キ・グアンソ 朝鮮大学 教授

4)第17回 歴史認識と東アジアの平和フオーラム 募集(予定)
 2018年の平和フオーラムは、日本の広島で開催する予定です。11月23日(金)〜25日(日)、2泊3日に渡って行います。「広島で考える核のない世界、歴史認識と東アジアの平和」の主題で韓中日の学者、教育者、市民活動家などが集って問題提起をします。参加者の募集は7月から開始します。内容の詳細や日程は追って案内をいたします。

○会員の消息(一部省略)
―5・10 運営委員会/研究所理事会
―5・12 3回目の平和の旅(1月の延期の旅・ウン・ジョンテ歴史連帯平和の旅委員長)
―5・17 青少年教育委員会 会議
―5・18 共同教材委員会 国内会議
―5・18、22 共同授業 大阪
―5・19 大阪で道徳教科書全国交流集会

──────────────────────────────────────
【4】朝鮮人強制連行調査の記録 大阪編『続』発刊記念の集い
──────────────────────────────────────

 5月11日(金)夜、天満橋のエル大阪南館1023号室で、大阪府朝鮮人強制連行真相調査団の集会が開かれ、約150人が集いました。空野佳弘弁護士(日本人側事務局長)の基調報告、金鎭英さん(韓国民族問題研究所先任研究員)の特別講演「日本の明治産業革命遺産と朝鮮人強制労働〜被害者の血と涙と汗の歴史を記録せよ〜」がありました。
 1990年代初め、大阪教組・大阪高教組の組合員らも調査団に参加して、1993年『大阪編』(柏書房)が発刊されましたが、それから実に四半世紀を経て『続』が発行されたことに感慨を覚えずにはいられません。それは、一方で、ともすれば「強制連行はなかった」「強制された従軍慰安婦などいなかった」などという歴史的真実を無視した暴論が横行し、教育現場もそうした言説の影響を受けざるを得ない現状と、他方では、南北や米朝首脳会談の中で朝鮮戦争の終結が意識にのぼり、それでは一体日本と朝鮮民主主義人民共和国との間には何があるのか、日本帝国の朝鮮植民地支配と朝鮮独立戦争の終結という、とんでもなく長い、米国以上に根本的な歴史の清算をそのまま放置してきたこと、それゆえに日本国はそれに目をつむって、できることなら朝鮮民主主義人民共和国が消滅してくれるようにと願望することについて一貫して突出していたことから来るものです。日本軍は米軍に無条件降服したが朝鮮人民軍は屈服することなく今日に至っている。米朝首脳会談を見よ。拉致被害者が本当に北朝鮮にいると思うのなら、どうして何が何でも戦争など避けようとしないのか。日本人がいるのに圧力を加え攻撃してかまわないなどと思うのなら、江戸時代に渡辺崋山が痛罵した日本人漂流者を乗せたモリソン号の打ち払い、それ以下の夜郎自大ではないか。
 敗戦時に行われた陸海軍記録の湮滅は、公文書・国家記録の湮滅・改竄として今も日本国の常態となっており、記録がない、証拠がないから、そんな事実はなかった、と言い抜けて、歴史・真実をほしいままに塗り替えてまかり通ることが目の前で続いています。集会でも強調されたように、植民地支配の真の清算、和解と平和の実現のためには、「事実の認知に伴う責任の受諾」が必要不可欠で、それは『君たちはどう生きるか』主人公コペル君の根本テーマ、また学校でのいじめ指導の究極の課題であることは、教育関係者なら誰でも周知のことです。筆者は調査団員として周辺をうろうろしただけに過ぎませんが、この25年間「事実の認知」に努力し続けてこられた関係者の方々を思い心から感動します。
 そして「徴兵・徴用」についてかつて確認したことをここにもう一度記しておきます。一つ中国戦線陸軍士官(筆者父親)の言葉。徴兵されて前線に配置された朝鮮人新兵は、銃撃戦が始まるや否や次々前方(敵方・中国軍側)に向かって逃亡したということ。二つ、筆者が体験談を電話受付した時の聴き取り。徴用で炭坑や工事現場に配置された朝鮮人は、どこでも次々と逃亡し、多くは日本人社会の中に秘かに紛れて隠れ住んた。日本の農村各地に遍く散在する朝鮮人の起源。三つには、甲子園に住む先輩の話。武庫川の東側(尼崎)は柄が悪いから行くなと言われていて、武庫川堤防工事でも 尼崎の工場、鳴尾浜の飛行場にも、伊丹空港の戦時中の拡張工事でも、兵隊に行って労働力不足の中多くの朝鮮人が連れてこられて従事した。戦後は皆周辺の河川敷や被差別部落にバラックを造って住み着いた。筆者の住む阪急石橋周辺は阪大生の心の故郷のような所ですが、飛行場東側(猪名川河川敷とその周辺)に多くの朝鮮人が住み、阪急の駅近くはミニ・コリアタウンになっています。池田小学校に覚書による民族学級(今風に言うとセンター校)が設置されていたことは有名ですね。かつて1952年6月24日(25日が朝鮮戦争勃発二周年)夜、阪大グランドに集まった大阪府学連の学生ほか朝鮮人(同年4月までは日本国籍)も多数ふくんで、すぐ近くの米軍管理下の飛行場や将官宿舎を横目に見て、石橋からの人民電車と国道171号線を東進南下する徹夜徒歩部隊に別れて吹田操車場に向かいました。拳銃で応射する警官隊と軍需輸送阻止のために衝突して「騒擾」事件を起こしたのでした。筆者が新任で赴任した学校にはそっと「あの時吹田に行っていた」と告げる先輩もいたのです。
 このように、日本内地での「徴兵・徴用」と朝鮮でのそれとは根本的に異なることに注意が必要です。朝鮮での法令はすべて総督の一方的命令でしたし、日本との協力を志向する人も多くいたこと自体は間違いがないにしても、そもそもの植民地支配の正統性からしてそれらが大多数の朝鮮人からすれば「強制」であったことは当たり前のことでした。また、そうして強制連行された朝鮮人は、日本人の側からは得てして見誤りがちなのですが、奴隷労働に「うちひしがれた」「かわいそうな」だけの人々では決してなく、自ら身一つで運命を切り開き、あちこち流浪移動しながらも民族団体や学習団体に結集して、今日までの在日朝鮮人の歴史を(本国の発展とともに)作ってきたのです。日本人にはほとんど見えていないのですが。
 従って、当然学校での学習の中心課題は、「事実の認知」とともに、さらにそれを難しいことにしている日本人一般の考え方へのアプローチ、朝鮮人の積極的で感動できる面を教材化することにあります。それを制度的に保障するものが「民族学級」であることは言うまでもありません。(印藤)

○大阪府朝鮮人強制連行真相調査団編著
『朝鮮人強制連行真相調査の記(大阪編・続)』2018年4月20日発行 頒価700円
 (内容)全国各地の体験者、特に、大阪陸軍砲兵工廠の。泉南アスベスト問題、強制連行跡銘板。研究報告「大阪への朝鮮人強制連行の概要とその特徴―鉄鋼・港湾・運輸・造船関係を中心に―」(塚崎昌之)、寄稿「天理・柳本飛行場跡説明板撤去問題が提起したこと」(川瀬俊治)。
○映画『焼肉ドラゴン』 6/22(金)より全国ロードショー。
 劇作家・演出家鄭義信(チョン・ウィシン)監督、真木よう子、井上真央、大泉洋、桜庭ななみら出演。1969年の伊丹・朝鮮人集落の焼肉屋で、切なくも可笑しい家族のドラマが繰り広げられる。

──────────────────────────────────────
【5】追悼 杉谷依子先生
──────────────────────────────────────

 我が家には『サラムえほん』があって、子どもに読み聞かせ、孫も読んでもうぼろぼろになっています。「笛吹きトルセ」の「ピッピッピリリ」、虎が「ワグルワグル」登場して「フンドゥルフンドゥルウッスッス」の結末まで、幾度読んだことでしょう。それらは考えてみれば、1970年代、それまで日本のどこにもなかった「子どもに朝鮮を教える」教材として杉谷さんが中心になって初めて創り出されたものでした。
 杉谷さんは5月28日に検査入院されていましたが、31日ご逝去になりました。85歳でした。6月3日(日)大阪市西区のメモリアルハウス花堀江で家族葬がとりおこなわれました。先生のご実家は伊勢神宮の神官だったと聞いており、信太一郎さんのお話では、神戸の須磨海浜水族園中にある貝類の「杉谷コレクション」はお父上の集められたものだということです。
 中学校教員として戦後の疾風怒濤の時代の中でのご実家との相克、一人で息子さんを育て上げられたそのご苦労など、私的なことは何も知りませんが、私たちが知る杉谷さんは既に大阪市教育界のいわばゴッドマザーとして重きをなしておられました。全朝教大阪(考える会)創設、1971年再生された大阪市外国人教育研究会の事務局長として采配を振るっておられたのです。当時全国唯一の公的な朝鮮人、外国人の教育研究組織でした。思い返すと、その頃考える会も、後の全朝教も、屋台骨を支えていたのは杉谷さんばかりでなくそうした女性たちで、「女性の生き方」についても集まれば火花が散るような議論がなされていましたが、その周りを稲富さんも内山さんもいわば小間使いのように走り回るだけ、筆者など遠目に眺めていたのは申し訳ないことでした。
 中でも、強烈な印象になって残っているのは、最初の『サラム絵本』に当初採用されようとしていた「こぶとり爺さん」をめぐる議論でした。ある学校におられたこぶのある用務員さんへの子どもたちの対応など現場教員の危惧から、杉谷さんがそれを取り下げ別の話への差し替えを提起しました。これに田宮美智子さん(樟蔭東高)が反発し、大激論になったのです。「こぶ」は悪いものなのか、差別への教師の配慮はどうあるべきか、人間性とユーモア、教育の根本はどこにあるのか。杉谷さんのその立場からする、またとにかく最初の一歩であるということからくる責任者としてのご苦労とともに、議論の中身は当時流行の表面的な「差別反対」ではない全朝教大阪(考える会)運動の真髄として、筆者の心にも刺さったのです。田宮さんの反対意見の文章は「むくげ」に掲載差し止め(十数年後に掲載)となり、後に尾を引きました。「明るい朝鮮」「暗い朝鮮」とともに、教育の論理を徹底して突き詰めようとする、当時教職員の議論でした。杉谷さんは、それらを踏まえて、サラムシリーズを音楽編、歴史編と続々と制作され、それは府下各市や周辺府県へと広がっていったのです。杉谷さんはそうした中で政治的にも鋭敏なところがあり、大阪市外教をいかなる団体とも一線を画して後援などはすべて断る方針を堅持されました。一時期解放同盟大阪府連と一体化して力を持った朝鮮人団体との関係について、ある時同じエレベーターに乗り合わせた筆者に(他に聞こえないところで)「そんなことよくできたねえ」と皮肉とも感心ともつかぬ口ぶりで言われたことを思い出します。連帯はしつつも教育運動の自立性を確保することは以後も困難な道に違いなかったのですが。
 杉谷さんはまた1991年に大阪市人権啓発推進協議会が出した冊子『ふれあいのまち大阪』(本会HPには、この中にある信太さんの「大阪と朝鮮半島の2000年」を掲載しています。上田正昭監修)作成の中心にもなり、『アジアの友だち マレーシア・フィリピン・タイ・インドネシア』(ブレーンセンター、1993年)で新しい渡日者が増加する情況へも一歩を踏み出されました。
 杉谷さん、お世話になりました。そしてありがとうございました。神式のお葬式では稲富さんからの弔電も披露されました。教員として活躍されている息子さんの心づくしもあり、親しい人の集った温かい場であったそうです。(岡野克子さん、信太一郎さんのお話しを印藤がまとめました。)


──────────────────────────────────────
【6】会計報告
──────────────────────────────────────
全朝教大阪(考える会) 会計報告   2016年3月〜2018年3月

○2016年3月26日〜3月末まで
収入・繰越金        229,207
支出             17,200(印刷・発送)
残高            212,007円
○2016年4月1日〜2018年3月31日
収入  繰越金       212,007
    カンパ        54,000
    会費(むくげ購読料) 39,000(2016年度 35,000、2017年度 4,500)
収入合計          305,007円
支出 
    「むくげ」印刷   150,768(213号45,144、213(改訂版)号と214号71,064、                   215号34,560)
    郵送料・振替料    64,829
    事務費        57,182(コピー・印刷紙・事務用品・他)
    購読料返金      1,500(同志社大学図書館への返金)
支出合計          274,279円
残高(3月末)        30,728円

残金の30,728円は次年度に引き継がれました。

    2018年3月31日              会計担当(前) 岡野克子

*この間多くの方々からカンパ・会費納入いただき、ご支援ありがたく受け取りました。 感謝申し上げます。当初報告とは、購読料返金一件関連分だけ違いがあります。なお新会計は正本順一が担当しています。今後も全朝教大阪(考える会)の活動にご期待ください。

──────────────────────────────────────
【7】行事予定
──────────────────────────────────────

民族教育フォーラム2018
 日時 9月15日(土)午後
 テーマ「民族学級が拓く可能性―すべての子どもが大切にされるためにー」(仮)
 *今年は四・二四阪神教育闘争70周年、民族教育ネットワーク結成30周年です。


◆◇全朝教大阪(考える会)の考え方 ━━━━━━━━━━━━━━━━

 日本人教職員、教育関係者が中心となって、教室でいっしょに机を並べる在日朝鮮人(韓国籍・朝鮮籍・日本籍)をはじめ、外国人の児童・生徒の教育、また、日本人の児童・生徒の教育について、教育実践と教育運動を通じて研究改善をはかります。
 「本名を呼び名のる」教育と「すべての学校に民族学級を」設置することが目の前の目標です。また、日本の学校の中での民族学級の制度化と民族講師の身分保障、民族学校の抜本的な待遇改善を通じて「民族教育権」の確立を求めます。そのことにより、多民族・多文化共生社会の未来を学校から実現することを目指します。
 本会は1971年7月15日石西尚一郎(大阪市同教事務局)、市川正昭(大阪市立鶴見橋中)、吉田裕子(高槻市立第六中)三人の「呼びかけ」に応え、7月31日大阪府教育会館で大阪教職員組合五島庸一教文部長の問題提起で討論集会を持ち、9月24日大阪市立東中学校で最初の研究集会を開催し、集まった約400名の教育関係者によって発足しました。

◆◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━‥‥‥……………………
┌──┐編集・発行/全朝教大阪(考える会)
│\/│代表/ 関本克良 sekimoto○sta.tenri-u.ac.jp
└──┘事務局/ 正本順一 masayan.j-61.1-neko.neko.33○docomo.ne.jp
    ホームページ http://zenchokyo.web.fc2.com/

●最後までお読みいただきましてありがとうございます。
 このメール・電子版「むくげ」は、むくげ215号発行以後電子版を申し込んでいただいた方を中心に送らせていただいています。もし、ご関心のない場合には、ご面倒ですが配信停止の手続きをお願い申し上げます。
●この電子版「むくげ」を読んでもらいたいお知り合いを是非ご紹介ください。
●投稿または配信停止を希望される場合は、「むくげ投稿」または「むくげ配信停止希望」とご記入の上、送信願います。
●この電子版「むくげ」内容は、約2ヵ月後に本会HPで公開する予定です。
●ご連絡は下記のアドレスまでお願いいたします。
  sekimoto○sta.tenri-u.ac.jp  (○は@に変える)

※本メールの無断転載・複製を禁じます。

inserted by FC2 system